40歳を過ぎて年下女性と結婚したものの…初夜は見事に拒絶、その後、彼女の寝室に忍び込んで聞かされた言い訳に、夫は「それはないだろう」
「それはないだろ」
ところが彼女はあるときふと、竜一郎さんを結婚相手の対象と定めたようだった。誘いが頻繁になり、適当な理由をつけて断ると自宅近くで待っていたこともある。迷惑だからと言うと大きな目に涙をいっぱいにためて見つめてくる。
「妙な雰囲気になるんですよね。それに耐えられなくて家に上げたこともあります。熱いコーヒーを入れたら、彼女は『ごめんなさい』と言いながら飲んで、黙って帰っていきました」
つまりは押し引きの上手な女性だったのだ。計算のうちである。だが彼はさっと帰っていった彼女の気持ちを思うといても立ってもいられなくなったという。そうやって男は女に騙されていく。騙されて幸せということもあり得るが。
「そうやって僕は徐々に追いつめられていったんでしょう、今にして思えば。結局、彼女に押し切られて結婚しましたが、周りからは『若い妻と結婚して、うまいことやったな』と思われていたようですね。結婚式当日でさえ、僕はどうしてこういうことになったんだろうと思っていたのですが、責任をとったと思うしかなかった。とはいえ、結婚式まで僕と彼女は手ひとつ握ったことがないんです」
そして初夜、彼は見事に彼女に拒絶された。婚姻届も出している。それなのになぜ、と問う彼に「私はそういうことが好きじゃないの」と智花さんは言い放った。結婚はしたかったけど、性的なことはしたくない。あなたならしなくてすむと思ったと彼女は言った。
「それはないだろと思わず言いました。智花は仕事も辞めてしまったんですよ。会社でも期待されていた人材なのに、あっさり辞めた。『オレに寄生したかったということ?』とわざと意地悪なことを言ったら、『家政婦でも雇ったと思って。でも私、あなたのことは好きだから』と。どう考えればいいのかわかりませんでした」
竜一郎さんはサラリーマン家庭の長男に産まれた。母はパートで働きながら家事万端を担う主婦で、妹がひとり。彼が結婚したときは、父はすでに定年退職し、70代だったが別の会社で働いていた。母もパートを続けており、それぞれに好きなことをしながら仲良く暮らしていた。妹は既婚で、夫と子どもふたりを結婚式に連れてきた。
「うちの両親は智花のことをとても気に入っていました。母なんか『こんなおじさんでいいの? 何かあったらすぐ言ってね。ひとり暮らしが長くてこの子、偏屈なところがあるから』と言わないでいいことまで智花に吹き込んでいました」
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