高齢者は8時間以上寝ると寿命が縮む? 世代ごとに違う「睡眠時間と死亡リスク」

ドクター新潮 ライフ

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 また、日本には「寝酒」という文化がありますが、これはお勧めできません。確かにお酒は寝付きを良くしますが、アルコールが分解されてできる成分に強い覚醒作用があり、数時間で目が覚めてしまうのです。

 寝付きを良くするためには、とにかく昼間しっかり活動することと、起きる時刻を一定にすること。

「眠くなったら」で問題なし

 そもそも私たちの生活の目的は、昼間の時間を活動的に過ごすことであって、夜、眠ることではありません。睡眠は、日中に活動した結果、体の要求に応じて仕方なくするもの。つまり「眠りを良くすれば、昼間元気になる」のではなく、「昼間元気に動いた結果、夜の眠りが充実してしまう」というあくまで受け身的なものなのです。

 若い頃、同じ時刻にすんなり寝付けていたのは、多くの場合、慢性的な睡眠不足という“借金”があったため。リタイアしてその借金がほぼなくなれば、長い睡眠が必要ない日も出てきます。従って、起きる時刻だけ一定にしておけば、寝る時刻は「眠くなったら」くらいで問題ないのです。

 高齢者には是非、若い頃を思い出し、眠りを惜しんで趣味に興じていただきたい。一見、逆説的ですが、このような心構えこそが良質な睡眠をもたらしてくれるのです。睡眠に限らず、加齢とともに体に変化が生じるのは当然です。この変化とうまく付き合い、より多くの人が睡眠健康を高められることを願っています。

栗山健一(くりやまけんいち)
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。1973年生まれ、東京都出身。99年、筑波大学医学専門学群卒、2003年、東京医科歯科大学大学院修了。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 成人精神保健部室長や滋賀医科大学准教授などを経て現職。著書に『60歳からの新しい睡眠習慣』がある。

週刊新潮 2024年3月28日号掲載

特集「「高齢者は8時間以上寝ると寿命が縮む!? 10年ぶり指針改訂 世代で違う『睡眠時間と死亡リスク』」より

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