高齢者は8時間以上寝ると寿命が縮む? 世代ごとに違う「睡眠時間と死亡リスク」
「眠れない」ではなく「眠る必要がない」
では、布団に入っている時間が長いと、なぜ死亡リスクが高まるのでしょうか。これは60代以降の睡眠時間は6時間程度で十分なのに、7~8時間も布団に入って眠ろうとしてしまうことで、睡眠の「質」が低下するからだと考えられます。
そもそも高齢者の睡眠時間が短くなる理由は、若い頃に比べて基礎代謝が低下し、生活の負荷や活動量が減るため。従って「眠れなくなる」のではなく、正確には「眠る必要がなくなる」のです。また、寝起きの時間が前倒しになったり、眠りが浅くなったり、昼間に眠気を催したりするのも、体内時計が作り出す昼夜のメリハリが加齢によって小さくなることに起因しています。つまり、60代以降の「眠れない」「夜、目が覚める」といった睡眠の悩みは、多くの場合、自然な体の変化の結果なのです。
この加齢と睡眠の質との関係は、ボウルに入った牛乳を思い浮かべてもらうとよく分かります。牛乳が「必要な睡眠時間」、ボウルの大きさは「床の上で過ごす時間」だと思ってください。加齢に伴って体が求める睡眠時間、すなわち牛乳の量が減っているにもかかわらず「寝よう、寝よう」と布団にしがみついてボウルのサイズを大きくしていくとどうなるか。牛乳はボウルの底に浅く薄くたまり、ちょっとした揺れでもたぷん、たぷんと波が立って、ボウルの底が見える状態になってしまいますよね。この「ボウルの底が見えた状態」が、夜中、途中で目が覚めてしまう現象です。つまり、睡眠時間の減少という自然な変化を受け入れられず、必要以上に長く床に就いていると、睡眠が薄まり、質を悪くする原因になってしまうのです。
「睡眠休養感」が重要
〈厚労省の「睡眠ガイド」では、健康増進の観点から「全ての国民が取り組むべき重要課題」として、「適正な睡眠時間の確保」とともに「睡眠休養感の向上」が挙げられている。時間という客観的な問題に比べて、捉えどころのない睡眠の質だが、端的に言えば、この「睡眠休養感」が得られる睡眠こそ、良質な睡眠ということになる。〉
睡眠休養感は、一言で言えば、朝、目覚めたときの「休まった感覚」のこと。かつては睡眠休養感の欠如が睡眠障害の目安の一つとされていましたが、日常生活ではそう難しく考える必要はありません。朝起きたときに直前の眠りで「体が休まった」となんとなく感じられれば、睡眠の質に特段の問題はないと考えてよいでしょう。逆に、眠りから覚めても体が疲れていたり、動き出しづらかったりすれば、「何か睡眠に問題がある」という警告が発せられていると思ってください。
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