高齢者は8時間以上寝ると寿命が縮む? 世代ごとに違う「睡眠時間と死亡リスク」
60歳を過ぎた頃から多くの人が直面する「眠れない」という悩み。ところがやみくもに「眠ろう」と努力することは、むしろ死亡リスクの上昇にもつながるという。国立精神・神経医療研究センターの栗山健一氏に聞いた「睡眠健康」を高める“眠りの新常識”とは。
***
【写真を見る】「寝る前にやるのはNG」と専門家が指摘する行動とは
60歳を過ぎて、仕事もリタイア。早起きする必要もなくなったことだし、これからは好きなだけ寝られるぞ!
しかし、そう思って布団に入ってもなかなか寝付けない。せっかく眠りに就けたのに夜中に何度も起きてしまう。もっと寝ておきたいのに、なぜか朝早くに目が覚めてしまう――。
シニア世代の中には、そんな悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。現役時代は布団に入ったのとほぼ同時に眠りに落ちていたのに、せっかく長寝する時間ができたと思ったら、今度はうまく眠ることができなくなってしまった。こうした悩みを訴える方は、高齢になるほど多くなります。
もちろん、若い世代にも睡眠の悩みを抱えている方はおられます。ところが、若い世代と60代以降とで「眠れない」の性質が全く異なっていることは、あまり知られていません。この“違い”を理解せずに、やみくもに「寝よう、寝よう」としてしまうと、眠れないどころか寿命を縮めることにもなりかねないのです。
長時間睡眠による死亡リスク
では、60代以降の「眠れない……」を「よく寝た!」に変えるためにはどうすればよいか。この問題を解くカギになるのが、睡眠を「量」ではなく「質」の面から考えるということなのです。若い頃は、睡眠の「量」を確保することが「質」を上げることにもつながったのですが、ことシニア世代に限って言えば、いたずらに「量」を追求すると「質」を低下させてしまいます。誤解を恐れずに言えば、シニア世代は「眠れなくてよい」のです。
〈今年2月に厚生労働省が公開した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」。14年に定められた前回の「睡眠指針」から約10年を経て改訂された“新ガイド”の特徴の一つが、必要な睡眠時間がライフステージによって異なることを明確にした点だ。
「睡眠ガイド」によれば、各年代に応じた推奨睡眠時間は、1~2歳児が11~14時間、3~5歳児が10~13時間、小学生が9~12時間、中高生が8~10時間、成人が6時間以上。しかし、子どもや成人について「睡眠不足」の問題が強調される一方、高齢者については「8時間以上にならないこと」と睡眠のとりすぎに注意が向けられ、長時間睡眠による死亡リスクすら指摘されているのだ。〉
[1/6ページ]