北朝鮮による日本人拉致、地震、皇室…新潟県警警備部の知られざる実像とは
横田めぐみさんは今年還暦に
北朝鮮による拉致問題は進展を見せぬまま、横田めぐみさんは今年の10月で還暦を迎える。元警察庁幹部は語る。
「『母の早紀江さん(88)とめぐみさんを、何としても再会させたい』というのが、全ての警察官の抱く思いです」
中学1年生だっためぐみさんは1977年11月、下校途中に新潟市内で拉致された。政府の認定する拉致被害者17人のうち、3分の1近い5人が新潟で被害にあっている。新潟は「大町ルート」と呼ばれる拉致の重要経路でもある。千葉・太平洋から長野・大町を経由して、新潟・日本海に抜ける――このルートの最終地点をウォッチする新潟県警警備部の重要度は昔から高い。また、県内には、対テロ警戒が必須な柏崎刈羽原発も立地している。
「原発の原子炉数は福井が13基で全国1位、新潟は7基で3位です。でも新潟は7基全てが柏崎に集中。福井は美浜原発3基、大飯4基、高浜4基、敦賀2基と、4カ所に分散しています。柏崎は東電管轄で、東京へ電気を供給しています。美浜と大飯、高浜は関電の管轄。敦賀は日本原電で、送電先は関電と中電、陸電の3社になる。つまり柏崎は、首都機能に直結するのです」(警察庁幹部)
それはすなわち「テロの標的になる危険性がある」、という事だ。
新潟港は、北朝鮮やロシア(旧ソ連)との接点でもある。北の元山港からは貨客船の万景峰号が寄港し、シベリア鉄道の終着駅があるウラジオストク港は新潟港の姉妹港でもある。万景峰号は、北朝鮮へ軍事転用物資や現金の持ち出しと、日本への工作員の送り込みに悪用されてきた、事実上の工作船。実際、ミサイル開発用の精密機械「ジェットミル」を、94年に北朝鮮へ密輸していたことが発覚している。
「旧ソ連は強制収容所でシベリア抑留者を服従させ、スパイとして新潟経由で日本に帰国させていました。だから新潟港の監視は重要課題となり、担当する新潟県警警備部が重視されてきたのです」
と、前出のOBは明かす。米政府は北朝鮮をテロ支援国家に指定し、欧州議会もウクライナで原発を占拠したロシアを指定しており、新潟港は、テロ支援国家が日本に潜入するための勝手口にされてきた。
拉致事件では、1978年7月に蓮池薫夫妻を柏崎市で連れ去り、国際手配中の実行犯チェ・スンチョルら3人の逮捕状を、国外移送目的略取容疑で外事課が取得。スンチョルは1985年に起きた西新井事件で、日本人に成り済まして、数々のスパイ行為を行ったとして、警視庁が過去に旅券法違反容疑で逮捕状を取っていたため、同庁が持つ拉致実行部隊の情報を参考に捜査を進めた。
78年8月には曽我ひとみさんと母のミヨシさんが、佐渡市の順徳天皇火葬塚付近で連れ去られ、ミヨシさんは消息不明に。国外移送目的略取容疑で国際手配された実行犯の逮捕状取得にこぎ着けた外事課が警察内で評価を上げた。
新潟県警警備部の金星と賞賛される、不審船(北朝鮮工作船)事件もある。62年に村上市から工作員が密入国した解放号事件では2人を逮捕している。
「当時は北朝鮮の工作員事案といっても、国交のない国でもあり世間の関心は低かった。2002年に北朝鮮が正式に拉致を認めてから評価が高まりました」(同関係者)
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