新朝ドラ「虎に翼」 「演技のレッスンが本当に嫌いで…」ヒロイン・伊藤沙莉が明かした独特の演技術
今どき珍しい“おしん女優”
子役仲間の中にはニート期間に自分の不遇を嘆く者もいた。しかし、伊藤はひたすら前を見ていた。母親に楽をさせてあげたいという思いもあったのだろう。
その甲斐あって、2021年には映画「ホテルローヤル」などの演技でブルーリボン賞助演女優賞に輝き、翌22年にはNHKの主演ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」で文化庁芸術祭テレビドラマ部門放送個人賞を得た。
子役、個性派の助演、主演と徐々に階段を上がった。映画「獣道」(2017年)などでは大胆なシーンも経験している。そして多くの若手女優が憧れる朝ドラのヒロインを射止めた。いつも明るく、苦労を見せないが、今どき珍しい“おしん女優”である。
伊藤が演じる寅子は女性の学びの場や権利が限定的だった時代に生まれながら、法律という「翼」を得て、女性の権利拡大や法律の近代化に大きく貢献する。
モデルである三淵さんも事情は全く同じ。当時は女性の入学を認めている大学すらほとんどなかった。それでも弁護士になりたかった三淵さんは明治大学専門部女子部法科(3年制)に入る。卒業生は明治大法学部に編入できたからだ。
女性法律家のパイオニア役
1938年、三淵さんは女性として初めて高等試験司法科(現・司法試験)に合格する。ほかに女性の同級生が2人合格した。三淵さんと同級生2人は終生、友情を保つ。合格者総数はたったの242人だった。
三淵さんの父親は銀行家で、恵まれた家庭だったが、弁護士になったあとの活動方針は「不幸な方々の御相談相手として少しでもお力になりたい」(『法律新聞』1938年11月8日付) と語っていた。リベラルだった父親の影響もあり、弱者の擁護と社会貢献に心を砕いた。
1947年には司法省(現・法務省)に入り、法律面での女性の不利益が解消されるよう努めた。1949年には東京地裁民事部の裁判官(判事補)になる。
1963年には画期的な判断に関わった。広島と長崎の原爆被爆者たちが国に補償を求めた東京地裁での民事訴訟で、陪席裁判官を務め、原告の請求こそ認めなかったものの、「原爆投下は国際法違反」との重い初判断を下した。この判断が端緒となり、国は被爆者救済を始める。
司法界の大物だったが、素顔はチャーミングで、宝塚と歌をこよなく愛した。職場の集まりで歌うこともよくあったという。
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