【漫画家・青木雄二の生き方】世の中、矛盾だらけ。自民党の支配や公務員の腐敗はとんでもないことや…「ナニワ金融道」で何を訴えたかったのか

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愛読者には弁護士や裁判官も

 私の自宅の本棚には「ナニワ金融道」が並んでいる。新聞記者にとっては、ある意味、バイブルである。今回「メメント・モリな人たち」の執筆にあたり、もう一度読み返してみたが、実に克明に描かれているのには改めて驚いた。マンガコラムニストの夏目房之介さん(73)が、以前、私の取材に「描くということに対する、作者の意識の異様なテンションが露骨なほど感じられる。既存の漫画文法を無視し、読みにくいはずなのに読者をぐいぐい引き込む力がある」と語っていたが、まさに細密画である。

 作品の中には、裏金融の実態やトラブルからの抜け道も分かりやすく描かれている。多額の借金を抱え、夜の仕事に身を落とす女性も登場する。夜のネオン街も、ここまで描くのかと思うほど生々しい。

 市役所の課長が「勉強会」と称し、政治家と金融会社の社員を接待する場面がある。1本12万円のブランデー。「費目は食料費。これで問題あらへん」と市職員が平然と答える。

 日本という国は、無知で正直な者ほど損をするのか。弱い者がさらに弱い者を追い立て、苦しめる。

「それはおかしいんや」と漫画を通して正々堂々と訴えたのが青木雄二という漫画家だったのだろう。愛読者の中には弁護士や裁判官も多かったそうである。バブル崩壊でマネーゲームの宴から目覚めた読者もいたに違いない。

 さて、北新地で豪遊していた青木さんの話に戻ろう。店がはね、自宅に帰る後ろ姿は、豪快なイメージとは裏腹に寂しかったそうである。結婚し、念願の長男が生まれたのは55歳のときだった。ヘビースモーカーだったことが命を縮めたのだろう。

「この世の中、たしかにカネは大切だが、カネにひれ伏し、振り回される人を、青木さんは嫌ったのではないか。『ゼニごときに負けたらアカンぞ』と、あの世から叫んでいるのかもしれません」

 読売新聞大阪本社の社会部記者だったジャーナリストの大谷昭宏さん(78)は言う。

「これからはますます勝ち組・負け組に二極化される。味も素っ気もない、殺伐とした社会になるやろ」

 前述した宮崎学さんとの共著「カネに勝て! 続・土壇場の経済学」(南風社、2004年刊)の冒頭に、こう青木さんは書いた。亡くなったのは、この本が出る前の年。03年9月である。

 没後21年になるが、世の中は弱肉強食の度合いがますます強まり、大手企業と中小・零細企業、正規と非正規の格差は常態化しているような気がする。「本当に景気が良くなったのだろうか」と庶民の多くが首をかしげる中、日経平均株価は1989年のバブル絶頂期につけた史上最高値を34年ぶりに更新した。青木さんが生きていたら、どんな漫画を描くだろう。

 次回は、由利徹さん。ドタバタ、ナンセンスな笑いを追究した、根っからの喜劇人・コメディアンだ。東京・浅草や新宿の街を歩きつつ、故人の足跡をたどる。

小泉信一(こいずみ・しんいち)
朝日新聞編集委員。1961年、神奈川県川崎市生まれ。新聞記者歴35年。一度も管理職に就かず現場を貫いた全国紙唯一の「大衆文化担当」記者。東京社会部の遊軍記者として活躍後は、編集委員として数々の連載やコラムを担当。『寅さんの伝言』(講談社)、『裏昭和史探検』(朝日新聞出版)、『絶滅危惧種記者 群馬を書く』(コトノハ)など著書も多い。

デイリー新潮編集部

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