【ブギウギ】水城アユミは美空ひばりを連想させたが…キーパーソンを架空の人物にする難しさとは

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自由度は上がったが無理がある展開も

 セミドキュメンタリータッチの作品がキーパーソンに架空の人物を登場させると、拍子抜けする。半面、水城という人物を作り上げたことにより、その出自やスズ子との出会いを自由に描けるようになった。

 もっとも、水城がスズ子の梅丸少女歌劇団(USK)時代の恩人・大和礼子(蒼井優)の忘れ形見という設定はやり過ぎだったのではないか。第117回(3月18日放送)でスズ子は水城と初めて会い、大和の娘だと知ると、「エーッ!」と驚愕したが、観ていた当方は驚きより、あざとさを感じた。

 第25回(昨年11月3日放送)での大和の告別式の後、ピアニストだった夫の股野義夫(森永悠希)と子供の消息について触れないことが気になっていたが、こういうサプライズな終盤にするためだったのか。まるで伏線の回収である。

 しかも、この筋書きには現実味が乏しかった。スズ子は恩人の回忌法要に一切無関心だったのか。USK時代からの盟友・秋山美月(伊原六花)らに大和の遺族の消息を尋ねなかったのか。もし、スズ子が遺族を気にしてなかったら、途方もない恩知らずということになってしまう。無理がある。

ほとんど描かれなかったスズ子の実父

 笠置さんの生涯のどこを切り取るかについて制作者側は悩んだだろうが、観ていて物足りない部分もあった。たとえば、ほとんど描かれなかったスズ子の実父についてである。

 名家の生まれで、早世したことは物語でも触れられたが、笠置さんの実父・三谷陣平氏の幼なじみである南原繁氏は1950年に彼女の後援会長となる。幼なじみの娘を陰から支えた。笠置さんにとっては亡父と自分をつなぐ存在ともなる。

 当時の南原氏は第15代東京帝国大学総長。今も語り継がれる偉大な政治学者で、戦後の復興のために尽力していたが、竹馬の友である陣平氏の娘に力を貸した。自分の死後に友人を動かした陣平氏とはいかなる人物だったのか。物語ではもちろんデフォルメされるだろうが、観てみたかった。

 実父の話が加えられたら放送時間が延びてしまうが、逆に短縮しても良かったエピソードがある気がする。たとえば、第14回(昨年10月19日放送)から第18回(同25日)まで続いたUSKの「桃色争議」である。USKの女性たちが会社側に抗議し、山寺に立てこもったが、物語では家族訪問日もある楽しい合宿のように見えてしまった。

■趣里は日本版のドリス・デイ

 実際には大阪松竹少女歌劇団(OSSK)と東京の松竹少女歌劇部(SSK)が激しい労使対立を繰り広げ、東京では逮捕者も出た。暗くなるので描くことを避けたかったのなら、いっそ事実に近い話をナレーションなどで短く伝える方法もあったのではないか。現実味を優先したほうが良かったと思う。

「ドラマなんだから」という人もいるだろう。もちろん、そうだ。しかし、モデルのいる人物や実際の楽曲を次々と出し、リアリティを前面に押し出したのはこの朝ドラなのである。現実と虚構が行きつ戻りつすると、物語に入り込みにくくなる。

 一方で全体的な作風は喜劇的でもあった。スズ子の動きや表情、口調がコミカルだったためだ。第33回(昨年11月15日放送)では恋心を抱いている演出家の松永大星(新納慎也)と会うため、ひょいと2階から飛び降り、笑わせてくれた。第73回(1月16日放送)では自分のもとを去った小夜(富田望生)が米兵と歩いているのを見つけた途端、必死の形相で追い掛けた。愉快だった。

 思い浮かんだのは笠置さんと同じステージにも立った江利チエミさん主演の実写映画「サザエさん」(1956年)。趣里はこのドラマで多才ぶりを見せつけたが、歌えるコメディエンヌとしても一流になれるに違いない。日本版のドリス・デイである。

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