「はしか」ってそんなに怖いものだっけ? 感染症を大ごと扱いする風潮に違和感(中川淳一郎)

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 来ました来ました! 今度は「はしか」がヤバいらしいです。UAEから帰国した20代男性がはしかに感染し、ニュースはその男性の移動経路を事細かに解説し、そして毎度おなじみの感染症の専門家様が「ワクチンを2回打つことが必要です」と締める。

 コロナ以前、はしかに感染した人のことを大ごとのように報道してましたっけ? 感染症を大ごと扱いする感染症に、メディア人はかかってしまったようです。

 それにしてもコロナ騒動期間中、メディアは手を替え品を替えあおりまくりましたね。「変異株」「後遺症」「ブレインフォグ」「ブレイクスルー感染」とかに加え、変異株の通称も「グリフォン」「エリス」「ケルベロス」だのおどろおどろしいものを盛んに報道。感染症について啓発することが正しい行為だと思い込んだか、「サル痘」までブームにしようとした。しかし、当時はコロナが怖過ぎて人々はピンとこなかったのか、変異株あおりに再び戻っていった。

 思えばメディアが「コレは怖いです!」とあおった例は過去にもたくさんありましたね。福島第一原発事故の後、「放射線がやってくる!」とあおり、ワイドショーのリポーターは「あぁ、すごい! ガイガーカウンターの値が突然増えました! 都内にも来ています!」とやった。いや、どこにでも放射性物質はあるでしょうよ……。それで恐怖におののいた人々は大阪や岡山や沖縄に移住をした。

 あとはデング熱。代々木公園でデング熱のウイルスを持つ蚊が捕獲され、最終的に108人の感染が認められたことから東京都は同公園を閉鎖。防護服を着た都庁職員が蚊の駆除を行い、2カ月間入園禁止となったのです。

 他にも「恐怖のアリ」とされたヒアリが外国からやってきて神戸港が厳戒態勢になったりもした。この「外来種」というものが日本人を恐怖させるにはうってつけの存在で、カミツキガメ、ヌートリア、クビアカツヤカミキリなどが該当する。

 HIV、デング熱、サル痘、そしてコロナもはしかも海外からやってきたからこそ恐ろしかった。でも、はしかってそこまで恐怖すべきものでしたっけ? 専門家が真面目な顔をして「感染力が驚異的」などと言うから人々はパニックになる。一方、人間の居住地域にやってきた熊を駆除すると、その自治体には「かわいそうだ!」とクレームが殺到する。怖がる対象がバグってるだろ!

 落語の「まんじゅうこわい」は、怖いものを話し合う中、まんじゅうが怖いという男にまんじゅうを食べさせる話です。男はまんじゅうが怖い、とうそをつくことで、たらふく食べようとしたのですね。しかしながら、本当にまんじゅうが怖いものになるかもしれない。何しろおでんのうずらの卵を食べた小学1年生男児が窒息死したことで、各地の小中学校給食でうずら禁止令が出たのですから。

 まんじゅうを食べて窒息死する人が出たらメディアは「まんじゅうは本当に怖かった」なんて企画を作ることでしょう。でもね、世の中にはもっと怖いものがある。人間です。はしかの感染者を危険因子扱いして差別する人間こそもっとも怖い。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年3月28日号掲載

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