羽生結弦がメディア戦略でつまずいた「ずんだ餅」のトラウマとは

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 同じ年生まれの国民的スターとして常に注目を浴び続ける大谷翔平と羽生結弦。好感度も極めて高い二人だったが、羽生に関しては否定的なコメントも見られるようになってしまった。一方で、今のところ大谷は情報発信でもパーフェクトゲームに近い状況を生み出せている。前編では専門家に、その違いをマーケティング戦略の視点から分析してもらったが、後編では羽生のナイーブさゆえの同情すべきエピソードからご紹介しよう。【前後編の後編】

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「ずんだ餅」のトラウマ

 元NHKアナウンサーで法政大学スポーツ健康学部教授の山本浩氏によれば、

「大谷さんのように球団と共に広報戦略を練り、結婚相手に配慮しつつ、言える範囲でどういう人かを説明できれば印象も変わったのかもしれませんが、プロ転向後の羽生さんはご家族がサポートしているわけです。私生活で日本中から好奇の目が注がれる事態に対処したことがなく、方策の立てようもなかったのではないでしょうか。二人を取り巻く環境の違いが出てしまったようにも見えます」

 その上で、こうも言う。

「今から7年ほど前、現役時代の羽生さんと仙台でトークショーをやったことがあるんですが、事前の打ち合わせで、『好物を聞かないでほしい』と頼まれた記憶があります。以前のインタビューで『仙台名物のずんだ餅です』と答えたら、羽生ファンが仙台駅の売店に殺到して買い上げてしまったそうなんです。観光客が“なぜ売り切れなんだ”と店に尋ね、“羽生ファンが買い占めた”と説明されかねず、予期せぬところで羽生さんへの嫌悪が生じる可能性があったのです」

 その点を羽生は深く憂慮していたというのだ。

「羽生さんからすれば、自分の発言で想定外の迷惑を被る人が出てくる。これまで何度もそういう経験をしてきたそうで、それを彼は『すごく怖い』と言っていました。自分でコントロールできない出来事が何度も起こり、それに対する手段を持てず次第に心を閉ざし殻にこもるというか、メディアに余計なことは喋らないようになってしまったのではないでしょうか。少なくともトークショーで話した時はナイーブで実直、メディアにも割と好意的だったと思うのですが……」(同)

「自分の発言で想定外の迷惑を被る」ということへの恐れは、離婚時に発表した悩みとも通じるものだろうか。

 情報をオープンにすれば、それだけ迷惑行為を招く隙を見せるリスクは高まる。かといって秘密主義を取れば、別のタイプの反発や疑念を招く可能性も出てくる。

 専属の広報含め、チームぐるみで守られている状況の大谷と比べると、ファミリー主体の羽生のほうが個人にのしかかる負担は大きいのかもしれない。

 目下、大谷には「水原一平通訳の違法ギャンブルと巨額窃盗」という超ド級の問題が起きているが、これもまたドジャースが前面に出て収束をはかることになるとみられる。

 松井秀喜のケースは

 思い起こせば、大谷や羽生よりもはるか以前に、世界を舞台に活躍し滞りなく結婚発表を済ませた先人がいる。2008年、ニューヨーク・ヤンキースに在籍していた松井秀喜(49)は、夫人が「一般人」であるとして顔や名前を公表しない代わりに、直筆の似顔絵を披露して話題をさらったのだ。

 メジャーリーグで当時、日本人初の球団広報として松井を担当した江戸川大学教授の広岡勲氏に聞くと、

「あの時の会見では、できる限り松井の言葉で答えてもらうようセッティングしました。メジャーでは取材される側の義務と、する側の権利が規定されており、取材を拒むことはできない。隠し通すのは得策ではないし、スポーツ選手は自分がいかに競技に打ち込める環境を作るかが最も重要。そもそも結婚は相手あってのことですから、パートナーへの思いやりを第一に、バッシングを防ぐ対応が著名人には求められるわけで、結果的に世界中から祝福された大谷くんの対応は見事でした」

 むろん本業で結果を出せば多くの問題は消えてしまう世界である。しかし本業に集中するためには周囲と共にある種のクレバーな戦略を立てる必要があるようだ。

週刊新潮 2024年3月28日号掲載

特集「なぜこんなに違うのか “同期の桜” 『大谷翔平』と『羽生結弦』の“明”と“暗”」より

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