既に2024年ベスト? ハマり役だらけで魅力のすべてが“掛け算”の「不適切にもほどがある!」

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 忙(せわ)しない。感覚、感情、記憶、思考回路が忙しないのに、すべての要素がひとつの物語に収斂(しゅうれん)されていく快感に溺れる金曜夜。チビ・ブス・ハゲ・あばずれと、今や禁句どころか死語と化した罵詈雑言を阿部サダヲ&河合優実が演じる父娘が浴びせ合う「不適切にもほどがある!」の話だ。

 昭和10年生まれの父・小川市郎と昭和43年生まれの娘・純子が昭和から令和にタイムトリップ、言葉にできなかった思いを確認し合う感涙の物語が主軸。アベサダは昭和脳の頑固オヤジなのに嫌悪感は皆無。歌って踊ってクッキリパッキリしゃべり倒して、謝るときは素直に謝るからかな。やさぐれてツッパリのフリをしてはいるが、本当は寂しがり屋で父親思いの純粋な娘を河合がかれんかつ完璧に演じている。もうこの親子だけでも既に優勝、2024年ベストといえそうだ。

 不良でも登校拒否でもなかったが、連絡網や駅の伝言板を利用、バブルのうまみは知らないが、かたせ梨乃と西川峰子(旧芸名)の脱ぎっぷりには感動し、子供はいないがあばずれで不倫と離婚は経験し、昔話ばかりしちゃう昭和47年生まれの私にはドンズバ響きまくる内容だから。名作映画に国内外の名曲、時代を築いたスターや故人への見事なオマージュにも拍手喝采だ。

 この昭和の父娘に「ひょん(タイムトリップ)」をもたらした令和の親子も大好物だ。市郎の教え子だった井上(中2を中田理智&大人を三宅弘城)はタイムマシンを発明したが、三半規管が弱くてタイムトリップできず。代わりに元妻で社会学者の向坂サカエ(吉田羊)と、不登校だった息子のキヨシ(坂元愛登)が昭和へ。ふたりとも昭和の居心地がよくて、案外なじんでるところが抱腹。母子ともにちゃっかり恋に落ちちゃって。もう最高なのよ、羊姐さんの板東英二の歌が(相手の中島歩は人生初の適役だ)。

 で、市郎が令和でうっかり恋したのが、よりによって自分の孫・渚(仲里依紗)。渚の父(錦戸亮&古田新太)、つまり、純子の夫が呼吸を荒くしながらももたらした事実の残酷さ(時の残酷さもセット)。平成の悲劇を忘れない宮藤官九郎の良心。憂慮する天才と同じ時代に生まれて本当に幸せだわ。

 昭和と令和、2組の家族が物語をけん引するが、もう1組。磯村勇斗が、昭和では若かりし頃の父(熱いムッチ先輩)と、令和では息子(市郎を助ける真彦)の二役を演じる。ムッチ先輩がとにかく笑える。劇中に「目と心の澄んだ単細胞」がひとりいることの妙を体現。

 渚が働いているのがテレビ局なので、令和のテレビに関わる人の不満と愚痴と鬱憤がこれでもかと大放出。TBSの総意と捉えておく。

 現段階で最も素敵なのは本人役の八嶋智人。芸能界における待遇の座標軸としていい仕事(けん玉)しとる。出演陣でおそらく最高齢の沼田爆も久々すぎて拝んだ。昔なめくじ妖怪とか演じていたのよねぇ。適役・ハマリ役の満艦飾に、時空を超える場面の流麗な転換、耳から離れない主題歌。魅力のすべてが掛け算で、かけがえのない作品になりそう。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年3月28日号掲載

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