平松愛理、「平成」でチャート圏外の作品が「令和」で再評価 阿久悠さんとの楽曲は「最初はサンバだったんです」
「月のランプ」は当時チャート圏外で大ショックを受けるも、令和で人気が上昇
ここで、「素敵なルネッサンス」でブレイクする前に発売した4thシングル「月のランプ」がSpotify第9位にランクインしているのを見つけた平松は、驚きの声を上げた。
「うわぁ、すごい! 当時オリコン圏外だった曲を、いっぱい聴いていただけているなんて!
実は、当時『月のランプ』を出したとき、初めてヒット・チャートが気になったんですよ。『ウッチャンナンチャンの誰かがやらねば!』(フジテレビ系)のタイアップだし、自分としては、かなりポップな曲を書いたつもりだったので、みなさんに受け入れられるといいなとも思っていました。だけど本屋さんでチャートを覗いてみたら、自分の名前がどこにもなくって。デビューしてから初めて大きなショックを受けましたね。だから、それ以降は、ランキングを気にしすぎないようにしていました」
ちなみに、「月のランプ」のサブスクでの再生回数は、シングル収録のバージョン(約6万4000回)と、93年発売のベスト盤「Single is Best」に収録されたRemixバージョン(約6万回)とで、ほぼ均等に分散している。それらを合算すると、ドラマ「都合のいい女」(フジテレビ系)の主題歌で30万枚のヒットとなった12thシングル「戻れない道」の再生回数(約12万4000回)と変わらないほどの人気である。
つまり、約35年経った今、彼女の「ヒットしてほしい」という想いは報われているのだ。
実際に「月のランプ」を聴いてみると、ブレイク前とは思えないほど洗練されたポップスで、今回サブスクで高ランクとなっているほうが納得できる。収録アルバム「MY DEAR」が半年にわたるロングヒットとなったのも、ヒットシングル「素敵なルネッサンス」に加え、単体ではチャート圏外だった「月のランプ」の完成度の高さが下支えとなったのではないか、と気づかされる。
「3枚目のアルバム『MY DEAR』は、“カーラジオや有線放送から曲が流れたときにいい感じになるよう、ミックスダウンしている”と、エンジニアの吉田保さんから言われていたんです。だから、今回のランキングを見ながらスマホで自分の曲を聴いて、“あぁ、こういうことなんだ!”って、改めて発見できました」
Spotify第11位には、シングル「素敵なルネッサンス」のカップリング曲で、後にアルバム「MY DEAR」に収録された「君にしとけば良かったなんて」がランクイン。異性の友達に失恋を相談されるという、ボサノバ調の軽快な楽曲だ。
「同じくカップリング曲の『世界語のLove Song』は情報番組のテーマ曲だったので、ある程度の予想がつきますが、『君にしとけば良かったなんて』はノンタイアップだし、ビックリです!
これは、自分以外の相手に失恋した男友達から、あるとき連絡があって、“君にしとけば良かった”って言われるというストーリー。最初は“失礼じゃない?”と思いつつ、最後は相手が後悔しているさまを見て、ちょっと気分がいいっていう(笑)。アイデアが浮かんだのは、どこかの駅の構内でエスカレーターに乗っていたときです。あるカップルと上り・下りですれ違うときに、“君にしとけばよかった”って聞こえてきて。どういう意味なのかと妙にドキっとしたので、それをヒントに書いてみました」
ちなみに、本作が収録された「MY DEAR」の歌詞カードには、平松自身による約7000字に及ぶショート・ストーリーも掲載されているので、CDで楽しむこともおすすめしたい。
被災地でも歌い継いできた平松愛理、阿久悠や島倉千代子との思い出を語る
90年代に数々のヒットを経験した平松は、出産や闘病なども経験しつつ、音楽活動をマイペースに続けてきた。Spotify第25位の「花と太陽」(12年)や、第28位「アネモネ」(04年)は、そういった時期の作品だ。
「このあたりの曲を聴いていただけているのもうれしいですね。『花と太陽』は、東日本大震災の後に被災地を回った際の定番曲だったので、東北地方では『部屋とYシャツと私』以上にたくさん歌ってきました。これは震災前から作っていた曲なんですが、東北に行ってみて、仙台のテレビ局で披露して。そこから自分ができる活動として、被災地にコスモスの種を蒔いていく『花サカスプロジェクト』を立ち上げ、活動のたびにこの歌を歌っていました」
「花と太陽」は、 ♪あなたには花のように優しい私でいたい そしてあなたには太陽のように 強くありたいと心から願う/世界中の皆んなが誰かにそうでありますように 花と太陽であふれますように~♪ といった歌詞に乗せて、優しくも凛とした歌声が響くバラードだ。
さらに、配信されているベストアルバムにも未収録のため、SpotifyランキングではTOP40圏外となっている「美し都~がんばろや We love KOBE~」についても尋ねてみた。本作は、95年に阪神・淡路大震災の神戸復興「がんばろや! WE LOVE KOBE 」のキャンペーンソングとしてリリース。平松が立ち上げた復興支援ライブ「KOBE MEETING」では、サビの部分で ♪We love KOBE がんばろや~♪ と大合唱になるほど浸透している。
「阪神・淡路大震災の後、淡路島出身の阿久悠先生から“曲を書いてみないか”とお声がけいただいたんです。売り上げが寄付されるということで、“ぜひやらせてください”と引き受けました。これは先に歌詞をいただいてから曲を作った、いわゆる“詞先”の曲。当時、FAXからタッタッタと音を立てて、クセのある先生の文字が送られてきました。実は、最初に作った曲はサンバだったんです。でも、“これは違う!”と思って試行錯誤し、寄り添えるようにとバラードで作り直して、サビもみんなで歌えるようにしました」
そのサビの部分のコーラスには、島倉千代子、大江千里、岡村孝子、澤田知可子が参加しているが、どういった人選だったのだろうか。
「コーラスは、私が当時よくしていただいた方々の友情出演です。お千代さん(島倉千代子)とは、ご自身が歌詞を書かれたラブソング集のアルバムに私が作曲で参加(「愛ひとひら」「ときめきよこんにちは」)したのがきっかけで可愛がって頂けるようになりました。肉じゃがを作って持っていったり、娘が生まれたときにも来てくださったり。世代やジャンルが違うからこそ、話しやすいと思ってくださったのかもしれませんね。
岡村孝子さんは、家に遊びに来ていただいた際にひと晩語り明かして、そこから仲良しになってくださいました。岡村さんは、芯が強くて本当に優しい方。作品もそうなのですが、言葉と言葉のあいだの空間にもメッセージがあって、本当にすばらしいんですよ。岡村さんのラジオ番組の代行をさせていただいたとき、彼女の曲をたくさん聴いて、その魅力について語り尽くしました」
ちなみに、筆者が企画した「名曲発掘! ジュエル・バラッズ」というオムニバスCDに、この「美し都」を収録したところ、私のもとに“とてもいい曲で感動した”というお便りがたくさん届いた点も申し添えておきたい。本CDには、松原みき「真夜中のドア~Stay with me」や本田美奈子.「つばさ」など、リリースされて10年以上経ってから大きな反響があった作品も収録されている。こちらもスマッシュ・ヒットとなった一因だが、平松の「美し都」も今後、サブスクによってより大きく広がっていくことを願っている。
最後に、デビュー35周年の予定と、リスナーへのメッセージを尋ねてみると、「まずは24年の5月にライブを行う予定で、そこから1年間、マイペースに歌っていきたいです。今回、このランキング表を見ながら自分の曲を振り返ってみて、なんだか原点に立ったような気分になりました。流行に関係なく、しかもライブで歌っていない曲までこんなにたくさん聴いてくださって、本当にうれしいです! それに尽きます!」
インタビュー中、予想外だった人気曲を発見するたびに話し声が元気になっていった平松だが、我々リスナーもライブやサブスクを通して彼女の音楽に触れてみると、“こんなにいい曲があったなんて!”と、その魅力に驚くことだろう。彼女の楽曲にはそうやって未来に向かうだけのチカラがみなぎっている。
【INFORMATION】
【公演】平松愛理35th Anniversary Project Live~めっちゃありがとう!~「新緑のうた」
【日時】2024年5月26日(日) 開場18:00 開演19:00
【会場】六本木クラップス
【料金】8,000(税込)※当日座席指定(整理番号付き)別途ドリンク代
【年齢制限】未就学児童入場不可
【主催】オフィスウォーカー/ひらまつ堂
【企画制作】キープスマイリング/キャピタルヴィレッジ
【一般先行予約】4月1日(月)以降 【一般発売】4月20日(土)
【発売場所】チケットぴあ
(取材・文/人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)