急逝した「鳥山明さん」に「国民栄誉賞」は授与されるのか? アスリートは選ばれても“マンガの神様”は選ばれない“格差”の正体
漫画家から文化勲章受章者が出ない
90年代に亡くなった石ノ森章太郎、藤子・F・不二雄も国民栄誉賞の受賞や文化功労者に選ばれてもおかしくなかったと思うが、実現していない。手塚と石ノ森は60歳、藤子は62歳という若さで亡くなったため、選出のタイミングを逃したという指摘はある。しかし、50代のうちに授与されていてもおかしくないほど、日本文化に対する影響力の大きさは計り知れないのではないだろうか。
2000年代に入り、漫画はますます発展した。にもかかわらず、文化行政からの関心の低さは、それほど変わっていないように思う。漫画家の文化功労者は1993年に横山隆一が選ばれて以降、昨年には里中満智子が選ばれ、じわじわと増えている。しかし、文化功労者の中から選ばれる文化人最大の名誉とされる文化勲章の受章者は、未だに出ていない。
日本芸術院も2022年からようやく漫画家を会員に選ぶようになった。しかし、これまでに選ばれた漫画家はわずか3人という少なさである。失礼を承知で言えば、現在の日本画や洋画の画壇で、漫画、アニメレベルで世界的な評価を得ている人はどれほどいるだろうか。漫画が“クールジャパン”だとか、“日本の文化”と語られるようになって久しいにもかかわらず、他の分野と比べて評価が低すぎるのである。
漫画から国宝・重要文化財は出るか
先日3月15日に、美術工芸品分野から新しい国宝と重要文化財の指定が答申された。仏像、土器、古文書など様々なものが指定されたが、漫画の分野からの指定は今年も出なかった。筆者は以前から、「いつ漫画の分野から重要文化財が出るのか」と気にしているのだが、残念ながら文化庁も関心は低そうだし、国会議員の間からもそうした動きは何もない。
筆者は、漫画の重要文化財第1号として、中古書店「まんだらけ」が所蔵する手塚治虫の『新寳島』のデッドストックこそがふさわしいと考えている。文字通り一度も読まれた形跡がない、出版当時の姿を留めたものだ。この漫画がその後の漫画界に与えた影響の大きさは説明不要であるし、藤子不二雄の『まんが道』などでたびたび語られているように、その評価は確定していると思われる。
このデッドストックの存在を聞きつけて、イギリスの大英博物館がまんだらけに本を売って欲しいと持ち掛けてきたそうだ。まんだらけは断ったというが、他国の文化についても強い関心を寄せるあたり、さすがは大英博物館だと思う。2019年、大英博物館で日本の漫画の大規模な展示会「The Citi Exhibition Manga」展が行われており、同館には日本文化や漫画に詳しい学芸員がいるようだ。ところが、日本の美術館や博物館からはまんだらけに依然として1件も問い合わせがないそうである。
漫画は印刷物だから重要文化財にならないのでは、と指摘する人もいる。しかし、書物の重要文化財はいくつもあるし、明治以降の都道府県の行政文書ですら指定を受けているものがある。貴重な漫画本、そして一点物である漫画家の直筆の原画などは、海外の博物館やコレクターからも関心が高い。今のままでは、かつての浮世絵のような状態になってしまうだろう。貴重な漫画本や歴史資料の散逸を防ぐ意味でも、指定を急ぐべきではないだろうか。
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