法廷で不利になると「今日はやめてもらいたいね~」 4人殺害の「連続強盗殺人犯」が“119回”の公判を経てたどり着いた「意外な結末」

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“猛々しい虎”が描かれたセーター

 裁判所も、仕切り直し後は結審まで一気に進めたいと思っていたのだろうか。そんな緊迫したやりとりが面前で繰り広げられるなか、当の池内はきょろきょろしたり、時々うとうととしており、緊張感なくのびのびと公判に臨む様子が窺えた。次回以降行われた被告人質問も同様だった。夏でも、猛々しい虎が背面いっぱいに編み込まれたセーターを着て、補聴器をつけた池内は、どういうわけか「生い立ち」から語っていく。公判が始まって7年にもなると思えない進行具合である。事件の話が始まるまで何年かかるのだろうという思いがよぎる中、こんなやりとりが続く。

弁護人「どこで生まれましたか?」
池内「どこだったのかなー!わかんない」
弁護人「小中学校のときは東京にいたんですか?」
池内「そうだね、杉並区!駅前にね、高円寺、駅前にボロ屋借りて住んでた!車通る、カド、カドだから、木の扉、開け閉め……車通る、角だから!」
弁護人「じゃあ兄弟は?」
池内「おじさんと、お袋と……」
弁護人「いやあの、兄弟は……?」
池内「あ~! 弟がいたね!」
弁護人「3人きょうだいの真ん中?」
池内「違う!!……え~っと、そうそう!長男!」

 きょうだい構成を確認することにすら時間がかかる被告人質問に、傍聴人は次々と席を立ち、法廷を出て行った。ドアの開け閉めの音が気になるのか、そのたびに池内は振り返り、弁護人からの質問を聞き逃す。「傍聴席は気にしなくていいから!」とたしなめながら弁護人はまた同じ質問をする。被告人質問の進み具合はどんどんスローになってゆく。

弁護人「あなたの家、ボロ屋っていってたけど、どういう風にボロだったの?」
池内「だから駅前の……水道もなかった! 水道じゃなくて、こうやって(井戸のポンプを上下に動かす仕草をして)出す、ポンプみたいなやつ! こうやるとジャ~って出るじゃない! 井戸っての? ……ジャ~」

 貧困家庭に育ったという話が1時間半ほど続いたところで弁護人が「じゃ、キリがいいのでこの辺で……」と唐突に切り上げ“次回につづく”状態となる。これが2008年7月から9月まで続いた。

「まだ履けそうだなーって、拾ったんだよね」

「小学校のころから耳がよく聞こえない、人生諦めてた! 犯罪者、前科者になるんじゃないかって思ってたもんねぇ。俺は性格おとなしいでしょ? おとなしいからさ、凶暴になるくらい酒が飲めれば、ヤーさんなんてブッ殺すかってぐらい凶暴になればね。おとなしすぎるんだよね」

 脈絡なく続く生い立ちからの自分語りを総合すると、池内は若い頃から耳が遠くなり、そのことで女性との交際なども諦めていたという。競馬が生き甲斐で、日雇いの仕事をしながらアパート暮らしをしていたが、最終的にテントで暮らすようになったのだそうだ。逮捕の半年ほど前、くだんの不動産会社社長から解体の仕事に誘われ、以降、解体工や運転手として働くなどしていた。

 不動産会社夫妻殺害に質問が及ぶと、やはり池内は否認し、彼と事件とを結ぶ大きな物証である靴についてこんな説明をした。

「逮捕前に、トイレ行って、帰りにふっと見たら、むこうに、花植えてある生垣のとこにさ、いかにも、まだ履けるよって感じで置いてあったわけ。まだ履けそうだなーって、拾ったんだよね。逮捕の前の日ね」

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