世界ランク1位でも…シェフラーが“タイガー・ウッズの後釜”になれそうにない理由

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シェフラーの本音

 そして、いずれはゴルフ界の現役レベルの戦いの場からウッズの姿が見られなくなるのも時間の問題――。そんな見方が広がりつつある。

 もちろん、現在、世界ランキング1位のシェフラーが今後も王座に君臨し続け、王座滞在期間を100週、200週と伸ばしていってくれたら、シェフラーこそがついに現れたウッズの後釜と見なされ、「ネクスト・タイガー」と呼ばれることになる。

 しかし、米メディアの多くは、ウッズが世界ナンバー1であり続けた時代と現代では選手層の厚みや技術レベルがすっかり異なっていることなどを理由に掲げ、「ウッズやノーマンのような王座長期滞在は現代では起こり得ない」と予想している。

 現在の王者シェフラー自身は、プレーヤーズ選手権優勝後はウッズらのように長期滞在の記録を伸ばしていくためには「あと10年、いや11年は必要」と数字上の計算を語った。その上で「やっぱりウッズには到底、敵わない」と明かした言葉に、シェフラーの本音が込められていたように思う。

 2020年のマスターズ最終日、シェフラーはウッズと同組で回り、難関「アーメンコーナー」の12番(パー3)でウッズが繰り返し池につかまって「10」を叩いた場面を目の当たりにした。

 しかし、その後、ウッズは上がり6ホールで5バーディーを奪い、最下位に近い位置から20人以上をゴボウ抜きして38位タイで終わった。

「すでに最終日だったあのとき、タイガーがあそこまで頑張って順位を上げる必要性があったのかと言えば、(すでに勝利も挙げていて、名誉も地位もお金も持ち合わせているウッズが)あの大叩きの12番の後に必死に追い上げる必要なんて何も無かったはずだ。それなのにタイガーは、あんなに必死に追い上げた……すごいガッツだった。終盤のアイアンショットのいくつかは、僕がこれまでに見たすべてのアイアンショットの中でも最高のすごいショットだった」

 最後まで諦めず、誰よりも強靭なネバーギブアップの精神を持ち合わせているウッズには「だから敵わない」と、シェフラーはすっかり脱帽している。

メンタル面に大きな違い

 そういえば、2022年のマスターズ最終日を首位で迎えようとしていたシェフラーは、前夜には緊張とプレッシャーで嘔吐し、その朝は愛妻の胸の中で「僕には勝つ準備なんてできていない」と言って子どものように泣いたことを優勝後に明かしていた。それでも彼は勝利したのだから、「ああ、良かった」というハッピーエンドではあった。

 だが、かつてアーノルド・パーマー招待の3日目の夜、当時の愛妻エリンが作ったシーフード・パスタを食べて食中毒になり、それでも激しい風雨に見舞われた最終日に、途中で吐いたり、しゃがみ込んだりしながら戦い通して勝利したウッズのストーリーとは、対極を行くお話のような印象を受ける。

 昨今のスポーツの世界では、昔のような根性物語はもはや古いと言われている。もちろん根性だけで勝つことはできないが、技術だけあっても精神力が無ければ這い上がることは難しく、長続きすることはさらに難しいのではないか。

 そう考えると、ウッズほどの強靭なメンタルを持ち合わせた「ネクスト・タイガー」と呼ばれる選手が出現するとは思えず、米メディア同様、ゴルフ界とウッズの「これから」がとても心配になる。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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