【ウクライナ戦争】日本人記者が見たマリウポリの現実 残った市民がロシア支配下で生きるそれぞれの理由

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手続きにはロシアのパスポートが必須

 ロシア国籍(パスポート)の取得は、一時期、大混雑だったが、2023年3月にプーチンがマリウポリを訪問してからスムーズになった。ロシア南部のロストフ州から追加の職員が派遣され、多くのパスポート申請所が開設された。

 パスポート申請に人が殺到するのは、ロシアを愛しているという感情的な問題ではなく、ロシア国籍がなければ何も手続きができないからである。戦争で全壊した住居の代わりに他の家をもらうのにも、前述の補償金を受け取るにも、パスポートが必要だ。市民のほとんどが、ウクライナとロシア、両方のパスポートを持っている。

 家が全壊し、かつ不動産の権利書も失っている場合、裁判を通して権利を復活させなければならない。長期にわたる 複雑な手続きに疲弊する人々は口を揃えて「ドネツク人民共和国から抜けて、ロストフ州に入りたい」と言う。マリウポリが属するドネツク人民共和国は行政機能が弱いため、ロストフ州が直接管理してくれることで手続きが少しでも早く進むのではという期待があるのだ。

多くの市民がマリウポリに残った

 2014年のマイダン革命の後、ウクライナが支配権を失ったドネツク市などと違って、マリウポリはウクライナ側に残った。つまり市民は、ロシアは敵であるというウクライナ当局の報道に8年間も触れてきた。国営テレビの報道を信じるならば、ロシアと共存するなんてまっぴらだと、ほとんどの市民が逃げ出していてもおかしくはない。

 しかし、現実には、かなりの数の人がどこへも行かずに戦禍を耐え抜き、最近では避難した人が戻って来ているのである。

 マリウポリの人口について正確な最新の数字はないが、ちょうど1年前、2023年3月の時点で、ドネツク人民共和国の前首長デニス・プシーリン はマリウポリの人口を「28万人」と発言している。戦争前には42万5000人が暮らしていたことがわかっている。とすると、出稼ぎ労働者の人数を差し引いたとしても、もともと住んでいた市民の少なくとも半分は何らかの理由で町に残ったことになる。多くの場合、それは個人的な体験から来るものだ。

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