藤井八冠が棋王連覇も…破れなかった55年前の記録 「激しい流れに飲み込まれてしまった」

国内 社会

  • ブックマーク

羽生九段と村山九段の名勝負

 決勝の持ち時間はわずか10分、使い切ると1手30秒以内という早指しが特徴のNHK杯テレビ将棋トーナメントは、1951年に始まった伝統ある棋戦である。時間に追われる棋士同士が様々なドラマを生むのが面白い。

 飛ぶ鳥を落とす勢いだった羽生九段と互角に近い対戦成績(6勝8敗)を残した広島県出身の「伝説の棋士」村山聖(さとし)九段(1968~1998)は、1998年2月、NHK杯の決勝で羽生九段と対した。

 後手番の村山が優勢に進め、勝利間違いなしと思われたが土壇場でミスをし、羽生に逆転負けしてしまう。この勝負は、原作・大崎善生、主演・松山ケンイチで話題になった映画『聖の青春』(2016年、監督・森義隆)でもハイライト場面だったので、将棋ファンでなくても知っている人はいるだろう。

 病に侵された村山九段は、この年、29歳の若さで亡くなった。

 さて、伊藤は3月19日、叡王戦の挑戦者決定戦で永瀬拓矢九段(31)を破った。藤井と3度目の対戦をすることになる。一方、4月10日から始まる名人戦七番勝負で豊島将之九段(33)の挑戦を受ける藤井は「最近、豊島九段はいろいろな戦型を指されている印象がある。これまでとは違ったシリーズになるのではと思う」などと話した。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。