藤井八冠が棋王連覇も…破れなかった55年前の記録 「激しい流れに飲み込まれてしまった」
将棋の棋王戦五番勝負(主催・共同通信社)の第4局が3月17日、栃木県日光市の「日光きぬ川スパホテル三日月」で行われ、藤井聡太八冠(21)が挑戦者の伊藤匠七段(21)に勝利し、3勝1分けで棋王を連覇した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】はやくも藤井聡太八冠との3度目の対戦が決まった「同級生」伊藤匠七段
スペーシアXに乗って日光まで
藤井は「大変なシリーズだったので、その中で防衛という結果を出すことができたのはうれしく思います」と素直に喜んだ。内容については「序盤の作戦は公式戦では指したことのない形でした。こちらが常に歩を損している状況だったので、どうすればうまくバランスを取れるか苦心するところが多かった気はします」などと振り返った。
勝っても反省の弁が多い藤井だが、この日は「前回の棋王戦のような早い段階で時間がなくなってしまうことが比較的少なかったので、その点は改善できたところでした」と納得の様子だった。持ち時間は各4時間で、一時は残り時間が伊藤より1時間近くも多く、伊藤が1分将棋に追い込まれていた状況でも藤井は時間を残していた。
前日に東武鉄道の特急「スペーシアX」に乗って日光入りした鉄道ファンの藤井は、前夜祭で「昨年は特急スペーシアに乗ってきたという話をしましたけれど、今年は新しくデビューしましたスペーシアXに乗って参りました」と嬉しそうに新車両の搭乗体験を話していた。
敗れた伊藤は「一歩得になってからの展開は、一手一手手探りだった。こちらにかなり陣形差があり、まとめるのに苦心した。中盤でバランスを崩してしまった」などと敗戦の弁を口にした。
破れなかった中原の記録
これで藤井は自らが持つタイトル戦の連勝記録を21に伸ばした。また、タイトル戦内での勝利は14連勝(引分け1含む)となり、大山康晴十五世名人(1923〜1992)の17連勝に迫った。
さらに、今回のタイトル防衛により、全タイトル保持の期間が羽生善治九段(53)が1996年に記録した168日(当時は全七冠)を上回ることが決まった。
一方、今年度の勝敗は46勝8敗で勝率は8割5分2厘と自己記録を更新。2年連続の勝率1位が確定したものの、中原誠十六世名人(76)の1968年度に記録した年間最高勝率記録8割5分5厘(47勝8敗)には届かなかった。
先手は伊藤で互いに飛車先の歩を進めた。ABEMAで解説していた金井恒太六段(37)と佐藤康光九段(54)はともに前半は伊藤が優勢と見ていた。しかし、午後から徐々に逆転し、藤井は1筋に置いていた角を3筋、そして8筋に回して攻守に働かせた。
一方、自陣の飛車が伊藤玉の上部を睨み続け、別の飛車で金と銀に「両取り」をかけるなど大ゴマが奔放に暴れた。終盤、「1一」に成り込んだ伊藤の桂馬を取り込んだ藤井玉がそのまま盤の片隅に収まると、陣形は矢倉なのに穴熊のようになった。これで伊藤は短手数で王手をかける目途がまったくなくなってしまった。
伊藤はせっかく「7三」に成り込んだ「と金」が、結局、藤井玉に近づけず、逆に後退せざるえない状況に追い込まれていた。「藤井さんが優勢ですが、一つ間違えるとわからない」(佐藤九段)という状況から伊藤もよく粘ったが、114手目の王手で伊藤は投了した。午後7時7分だった。
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