「あなたの口座が詐欺に使われているので、お金を抜いて捜査する」790万円を送金してしまった45歳女性が「これは詐欺だ」と気づいた瞬間

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犯人たちに仕掛けた“嘘”

 ここに来て疑い始めた中井さんは、思い切って犯人たちを試してみようと考えた。

「親の財産を家族信託の形で預かっていたんですが、それも引き出すようにと言われたんです。本当は親の確認が取れれば私の意志で下ろせるんですが、『これは公正証書を作っていて、弁護士の許可がないと引き出せない。弁護士に相談しないとだめです』と言ってみたんです。そうしたら『後で電話します』と言われ、そのまま30分くらい放置されたあと、『弁護士が関わってくるものはいらない』というようなことを言われて。本当は引き出せるのに、それを知らないということは、この人はもしかして警察ではないのかも、これは詐欺だ、と思い始めました」

 さらに、中井さんは続けて「振り込んだお金をどう捜査するのか」と尋ねた。返ってきた答えは「1枚1枚、紙幣を調べていきます」。詐欺だと気づいた中井さんは、近所の葺合(ふきあい)警察署へ駆け込んだ――。

中井さんからのアドバイス

 中井さんが振り込んだPayPay銀行とUI銀行の口座は凍結され、組戻し(資金の返却)ができるものは手続きを行った。保険やNISAも解除せずに済んだ。しかし、先のネットバンクの分は間に合わず、790万円は戻ってこない。

 とつぜん連絡が途絶えたことに焦ったのか、警察に相談しているあいだも中井さんのもとにはひっきりなしに着信やLINEが寄せられていたという。だが、警察の指示により、着信拒否とブロック設定を行い、以降、犯人たちとは連絡をとっていないという。

「被害届は出したものの、警察からは『お金はあきらめてください』と言われました。通話を録音していたわけではなく、LINEのやりとりだけでは証拠にならないというんです。言われるがまま着信拒否をしてしまいましたが、犯人たちを泳がせて録音もできたかもしれない……と今は悔いています」

 後日、振り込んだふたつの口座の残高はすでにゼロになっていたと、警察から捜査の進展を知らされた。犯行後すぐに別口座に移されたものと思われる。

 中井さんからのアドバイスはこうだ。

「銀行を分けてお金を持っていたほうがいいということと、すぐには引き出せない形で持っておくべきということですかね……」

 3月17日、改めて中井さんが犯人たちのLINEアカウントを確認すると、アイコンは高知県警のものに変わっていた。次なる詐欺計画が動き出しているのだろうか――。

前編「【特殊詐欺の実態】45歳女性はなぜ『総務省の松本』『北海道警の佐々木』を名乗る人物に790万円騙し取られたか」のつづき。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』(コスミック出版)。主な著作に『売る男、買う女』(新潮社)など。X @sakai _ayumi333

デイリー新潮編集部

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