【特殊詐欺の実態】45歳女性はなぜ「総務省の松本」「北海道警の佐々木」を名乗る人物に790万円騙し取られたか

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なぜ騙されてしまったのか

「身の潔白を晴らすべき」などと促され、言われるがままに運転免許証や預金通帳などの写真を送ってしまった中井さん。なぜ騙されてしまったのか?と思うが、中井さんには自分の個人情報が詐欺に利用されているかもしれないという心当たりがあった。数年前に参加していた勉強会の主催者が、のちに「詐欺師っぽい人」(中井さん)だと分かり、関係を絶ったことがあったという。5~6年前の出来事だというから、今回の事件との関係は薄いようにも思えるが、とにかくこうした背景があった。

 さらに、

「実は私はADHD(注意欠如・多動症)なんです。電話を受けてとにかく慌ててしまったのもそのせいでしょう。犯人には障害者手帳の写真も撮って送りました。『事情を鑑みて特別にサポートします』というようなことを言われました」

 犯人とのやりとりのLINEを見ると、中井さんは複数のネットバンクの資産状況が確認できるスクリーンショットや銀行の通帳、保険証書の写真など、自分の個人情報を立て続けに送っている。「過集中(ADHDの患者に表れやすい過剰に集中しすぎる状態)の特性が出てしまったのかもしれません」と本人は言うが、彼女の障害に付け込んで犯行に及んだ点で、より悪質だと言えるだろう。

 不幸中の幸いは、犯人たちに知られてしまった中井さんの“財産の全て”が被害に遭わなかったことだ――。

 後編「『あなたの口座が詐欺に使われているので、お金を抜いて捜査する』790万円を送金してしまった45歳女性が『これは詐欺だ』と気づいた瞬間」へつづく。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』(コスミック出版)。主な著作に『売る男、買う女』(新潮社)など。X @sakai _ayumi333

デイリー新潮編集部

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