「借金返済と労働しかない親近感」 配信から地上波に来た「僕の手を売ります」
動画配信系のドラマがやや時間をおいて、地上波の深夜枠へ落ちてくる。どういうからくりなのかな。個人的な印象では、配信系は「企画が通りやすく、内容からキャスティングまで自由度は高いが、如実に出る数字で過酷な競争にさらされる」。地上波は「スポンサーが付くものの、制作にかけられる時間は短く、面倒臭い横やりが四方八方からブンブン飛んできて、しかもクソつまらなくなる」。実際には、青息吐息のテレビ局の多角的な放映権ビジネスってのが実情なのかな。とはいえ配信系も群雄割拠、あの手この手で登録者数を増やしたいわけで、手に手を取り合って団子状態になっとるのかな、と妄想させた今期の2作品をご紹介。
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まず、オダギリジョー主演&プロデュース「僕の手を売ります」。昨年Amazon Prime VideoとFODで配信され、今年に入ってフジの深夜枠で放送が始まった。
経営の失敗で借金を抱えた男・大桑北郎が日々方々で労働する物語。お気楽なロードムービー風と思いきや、行った先々できっちり働く勤労ドラマでもあり。
北郎は手先が器用で、汚れ仕事も厭わず。使えるモノは拾って直し、あらゆる道具を積み込んだバンで寝泊まりしながら、北方領土と皇居以外はどこへでも行く。債権者(松田美由紀)のムチャぶりに翻弄されながらも、借金返済のタスクが半ばアイデンティティーの一部になりつつある善良な男。世間体に縛られることもなく、正真正銘一匹狼の働き者だ。主題歌が仕事ぶりを端的に表現しているのだが、この不安な時代でも生命力の高い理想的な男なのよ。家を空けがちな暮らしでも、朗らかでおおらかな妻(この手の、細かいことを一切気にしない妻役で無双の尾野真千子)に信頼され、目ざとくて賢い娘(當真あみ)からも尊敬されている。
示談金の取り立てに行ったつもりが逆に人探しを依頼され、消息をたどるうちにアクの強い人や業の深い人と出会っていく北郎。その一期一会が「何の変哲もない日常」で溢れているところが好きだ。救うとか癒やすとかエエ話ではないから。地上波では余命とか復讐とか家族愛などの「型と流行とお約束」が課されがちだが、借金返済と労働しかないこの作品には親近感しかない。個人的には横須賀の姉妹(柳英里紗&円井わん)、極悪家政婦(今藤洋子)、床屋(石井正則)がおかしくて。
もう1作。昨年DMM TVで配信、今年2月からテレ東で放送されているのが、「ケンシロウによろしく」だ。ヤクザ(顔面凶器の中村獅童)の愛人となった母(筒井真理子)に幼少時に捨てられ、「北斗の拳」をバイブルに復讐を誓うマッサージ師を松田龍平が演じる。漫画原作で馬鹿馬鹿しさに特化したコメディーだから、説明は不要か。ここ数年、芸能人男性の筋肉つけ過ぎ問題を憂えている。男が中年以降に筋肉つけて金髪にしたらろくなことがない。マジで。龍平が、もし万が一この役のために無駄にマッチョ化したらイヤだなと思っていたが、安定の生気レスとなで肩で安堵した次第。施術を受けたいとさえ思う。