村上頌樹の「669球」、PL学園がまさかの完封負け…センバツ決勝戦名勝負を振り返る!

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甲子園で唯一喫した完封負け

 一方、PLは「勝たねば」の意識が強くなり、7回無死一塁で、4番・清原が送りバント。マウンドの山口は「PLさん、焦ってるな」と、このとき勝利を確信した。精神的に優位に立った山口は、1死二塁から桑田を中飛、次打者も右飛に打ち取り、ゼロに抑えた。

 そして8回、岩倉は武島信幸の右翼線二塁打と四球で2死一、二塁とし、前日の大船渡戦でサヨナラ本塁打を放った2番・菅沢剛に打席が回ってきた。

 2回戦の京都西戦で右手親指の付け根を痛めた桑田は、終盤以降、球が高めに浮きだし、「狙っても当たらなかった」鋭いカーブも甘くなっていた。菅沢はカウント1‐1から真ん中高めカーブを狙い打ちし、見事右前に弾き返す。桑田から毎回の14三振を奪われながらも、ついに1点をもぎ取った。

 そして、山口が被安打1の1対0で完封。前夜、山口はPLに1対0で勝利し、捕手の浅見英祐と抱き合って喜ぶ夢を見たそうだが、ナインは「ひと桁安打に抑えられるのか?」と本気にしなかった。本人も「10点ぐらいは取られるかも」と覚悟して臨んだのに、終わってみれば、スコアまで同じ正夢に。KKのPLが甲子園で唯一喫した完封負けでもあった。

菊池雄星が率いた「花巻東」の激闘

 かたや東北勢初の全国制覇、こなた長崎県勢初の大旗をかけて決勝戦で激突したのが、2009年の花巻東対清峰である。

 試合は花巻東の最速152キロ左腕・菊池雄星、清峰の149キロ右腕・今村猛の投手戦となり、6回まで両チームともゼロを並べる。

 だが7回表、小さなほころびをきっかけに試合は大きく動く。たった3球で2死を取った菊池だったが、8番・嶋崎幸平をストレートの四球で歩かせてしまう。

 この下位打者への不用意な四球が、命取りとなる。直後、167センチの右打者・橋本洋俊が直球一本に狙いを定め、カウント1‐1から144キロ直球を思い切り振り抜くと、コースもやや甘く、中堅手の頭上を抜けるタイムリー二塁打となった。

 7回まで今村の前に二塁も踏めなかった花巻東も8回に3連打で走者を三塁まで進めたが、三盗失敗もあり、得点ならず。9回にも2死から菊池が中前安打を放ち、連打で一、二塁としたが、最後の打者が左飛に倒れ、1対0でゲームセット。左右の本格派対決を制し、3年前の決勝で横浜に0対21で大敗した先輩たちの無念を晴らした今村は「やっと終わったと思った」と会心のガッツポーズを見せた。

 一方、同点の二塁走者だった菊池は、本塁へ戻ってくると、無念そうにホームベースを見つめながら呆然と立ち尽くした。そして言った。「まだ野球の神様が練習不足と言っているのだと思う」。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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