【グリコ・森永事件40年】最後まで残った江崎社長に着せられた“黒のオーバー”の謎

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謎の遺留品

「犯人は最大で7人いると思っています。滋賀で目撃された車の運転や盗難に長けた者。アベック襲撃事件で、腕に覚えのある自衛官を一瞬で制圧した二人。またテープの声にあった女性と子ども。そして脅迫状に見られる、非常に文章力のある男。それらメンバーの司令塔となっているもう一人」(小田桐氏)

〈けいさつの あほども え〉

〈全国の おかあちゃん え しょくよくの秋や かしが うまいで〉

 特に小田桐氏が注目するのは、何度もマスコミと企業に送り付けられた脅迫文だ。

「警察の捜査状況やミスを明らかにし、捜査幹部の個人名もさらして揶揄している。非常にこなれた文章です。ところが、脅迫する企業に出す文面は強面な文章になっている。また、ある企業を脅しているようでいて、水面下で別の企業も脅迫している。表と裏を巧妙に使い分けているという印象を持ちます」(同)

 しつこく企業を脅迫し金銭を要求するが、現場で警察官の気配など、少しでも危険と判断すると取り引きをやめ、すぐに引き下がるのも特徴だった。

 元兵庫県警捜査一課長の山下征士氏が著書『二本の棘 兵庫県警捜査秘録』(KADOKAWA)で指摘しているのが、事件発生直後、監禁場所から自力で脱出した江崎勝久社長が着せられていた黒のオーバーである。旧陸軍将校の外套と同じ特徴で、戦前に作られ戦後に仕立てられた可能性が高いものだったという。江崎グリコは戦前に中国の大連に工場を作っており、何らかの関係があるのではないか――。

「この事件では遺留品があっても大量生産、大量消費されたものばかりで、製造や販売元まで分かっても、購入した犯人にたどりつくことはできませんでした。しかし、大量生産品ではない唯一の物証がこのオーバーです。意味深な遺留品で、捜査の関心をそちらへ向かわせるための戦略だった可能性もありますが、こうしたところにも表と裏を使い分けている、犯人の巧妙な二面性を感じますね」(小田桐氏)

 もし、犯人に会うことが出来たら、小田桐氏は「なぜ、江崎社長の監禁場所を大阪の倉庫にしたのか、事件の始まりをあそこに選んだ理由は何かと聞きたい」という。

前編【【グリコ・森永事件40年】似顔絵から受ける印象とは違った「F」 元捜査幹部が明かす“本当の姿”】からのつづき

デイリー新潮編集部

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