【グリコ・森永事件40年】似顔絵から受ける印象とは違った「F」 元捜査幹部が明かす“本当の姿”
キツネ目の男
約9100件――。
一連の事件が完全時効を迎えた2000年2月、警察庁が公表した「キツネ目の男」に関して寄せられた情報件数である。「グリコ・森永事件」と聞くと、真っ先に思い出すあの顔である(ちなみに「ビデオの男」に関しては、時効までに4100件)。
この男の似顔絵が、大阪府警の捜査本部から公開されたのは、発生翌年の1985年1月10日。年齢は35歳から40歳。身長175~178センチ。まゆは薄く、縁なしメガネの奥の目は細く吊り上がり、ウェーブのかかったくせのある頭髪。担当捜査員をして「90パーセント似ている」とされたこの似顔絵は、やはり未解決に終わった「3億円事件」(1968年)のモンタージュ写真と並び、いまも多くの日本人の脳裏に刻まれている。
捜査員の間で、キツネ=FOXの頭文字をとって「F」と呼ばれていた男が目撃されたのは二度。一度目は1984年6月28日夜、犯人グループが丸大食品から5000万円を奪取しようとした際、東海道線内の車両や京都駅で目撃された。二度目は同年11月14日夜。ハウス食品に1億円を要求した際、現金運搬車が連絡場所の名神高速道路大津SAに着いた時にSA内で目撃された。
「デイリー新潮」では、2017年8月21日と22日に配信した「「グリコ・森永事件」で地を這った特殊班 現職を退いた刑事らが明かす秘話」」「グリ森「キツネ目の男」はおとり役だった? 公開されなかった“モンタージュ写真”」という2本の記事の中で、目の前でFを目撃した、元大阪府警捜査1課特殊班員の貴重な証言を紹介している。
「両手を広げ、背中を壁にピタリとくっつけてマルケイ(注・現金運搬役の捜査員)の動向を窺ったりする。まるで忍者モノのコントでも見ているような感じでした」
それは「職務質問でもしてくれ」と言わんばかりの態度だったという。現場に警察官がいるかどうか、確認していたのではないかという見方もあるが、後に、二度も捜査員の前に姿を現しながら、その場で職務質問、任意同行しなかった点が批判されることになる。当時、大阪府警本部長として指揮をとり、昨年2月に92歳で亡くなった四方修氏は最後まで、
「キツネ目の男も、電車に乗っていただけ。職務質問しても証拠がなければ手も足も出ない。組織犯罪を検挙する時は、ある程度泳がして一網打尽にするしかない」(毎日新聞2000年2月12日付=大阪)
と、捜査方針と、従事した捜査員への配慮とも思える考えを語っていた。
「似顔絵から受ける印象として、ふっくらした男性を連想してしまった人が多いかもしれない。Fは、すらりとした長身で、身のこなしが軽かった。京都駅の雑踏で特殊班員が見失ったのは、フットワークが巧みだったせいも大きい。後に、全身を描いた似顔絵も公開しましたが、最初の“顔”のイメージが強すぎたのか、確かに顔が似ていても、背格好が違う情報提供もありました」(元大阪府警幹部)
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