1人の出演者から意外な要望が…NHK「のど自慢チャンピオン大会」、生バンド復活の舞台裏

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コーラスが「ピカチュウ!」

 デモ音源の送付が終わると、1人の出場者から思わぬ要望が出た。長野県佐久市のチャンピオンでaikoの「瞳」を歌う女性が、「チャンピオン大会は2番の歌詞で歌いたい」と相談してきたのだ。

「『のど自慢』に出場された時、お子さんが生まれたばかりだったので、1番の歌詞が自分の気持ちにぴったりだったそうです。ところが、お子さんは1歳になり、ちょうど歩き出した。そのためチャンピオン大会では、歩き出した子供に相応しい2番の歌詞を歌いたいというご希望だったんです。僕もディレクターも異存はなかったですし、編曲の専門家も『全く問題ありません』とのことでしたので、本番では2番を歌ってもらいました」

 次にいよいよ生伴奏の準備を始める。NHKは生伴奏のノウハウを豊富に持っている。例えば、総合テレビでは毎週火曜の午後7時57分から「うたコン」を放送している。基本はNHKホールに観客を入れた公開生放送で、生バンドが伴奏する。

「『うたコン』の伴奏はマネジメント会社に集めてもらったミュージシャンが担当します。チャンピオン大会でも同じ会社に相談しました。ですので、チャンピオン大会で伴奏を担当したミュージシャンの中には、うたコンに出演されていた方もいます。『のど自慢』の伝統的なバンド編成では再現できない曲もありますので、弦と管楽器、パーカッション、さらにコーラスが加わりました。山口県下関市のチャンピオンは『めざせポケモンマスター』を歌いましたが、途中で『ピカチュウ!』と声を出したのはコーラスの担当者です」

生伴奏の高揚

 13組のチャンピオンが披露した曲は、歌唱力が求められる、いわゆる「歌い込む」印象の作品が多数を占めた。コンピューターを活用した“打ち込み系”の楽曲は皆無だった。

 だが、もし来年、打ち込み系の曲を歌うチャンピオンが出場しても、生伴奏による再現は可能だという。

「たまたま打ち込み系の曲がなかったので、比較的、生伴奏が容易な13曲になったのかもしれません。とはいえ、今回の大会でも、ほんの少しですが事前に作成した音源は使われました。また、編曲の担当者が言うには、今のテクノロジーを駆使すればパソコン1台でオーケストラに匹敵する伴奏を作ることも可能だそうです。カラオケか生伴奏か、という対立項が成立しない時代が近づきつつあるのかもしれません」

 とはいえ、やはり生伴奏の音色は素晴らしいものがあったという。本番前日にリハーサルで音合わせが始まると、友杉氏は感慨を覚え、気分が高揚するのを感じた。

「生の楽器が生む圧力というか迫力は、やっぱり嬉しかったですね。本番の前日にサウンドチェックが始まると、僕だけじゃなくスタッフのみんながワクワクしているのが分かりました。そして午後2時過ぎに出場者の皆さんがNHKホールに集合しました。それから最低2回、練習で歌ってもらいましたが、僕は若干の不安を感じていたんです。予選も本番もカラオケ伴奏で誕生したチャンピオンが、生伴奏に合わせられるんだろうかと懸念していたんですね。ところが、実際に聴いて驚きました。びしっと一発で合うんです。やっぱりチャンピオン大会ともなると、皆さん歌が飛び抜けて上手いんですね」

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