“悪童”マッケンローを変えた「伝説の一戦」 観客の心をつかんだウィンブルドン(小林信也)
観客の心をつかんだ一戦
伝説の80年ウィンブルドン決勝。5連覇の重圧にボルグはあえいでいた。
「5連覇しなければ、忘れ去られる……」
自分を追い詰めたボルグは婚約者シミオネスク、少年時代からのコーチ、レナートに激しい怒りを向ける。
1万5000の大観衆が席を埋め尽くすセンターコート。2対1で迎えた第4セットのタイブレーク、ボルグは計7回のチャンピオンシップポイントを握った。そのたびマッケンローがはね返した。微妙なジャッジも数度あった。普段なら怒り狂う悪童が無言のままプレーを続けた。彼の変化にスタンドも気付き始めた。
15-15の局面でボルグのボレーをコートの端から端まで追ってなんとか返し、奇跡的にポイントを奪った時、マッケンローはあることに気が付いた。
〈「観客の興奮が波のように伝わってきた。俺に勝たせたくないと思っていた人たちも、俺がこのタイブレークを勝ち抜くよう願っているとわかったんだ」〉
ティグナーは書いている。
〈そう、マッケンローはいつの間にか観客の心をつかんでいた。もはや誰もブーイングをしていなかった〉
そしてついに真摯なマッケンローがこのセットを取り、勝負はファイナルセットに持ち込まれた。
第5セットもタイブレークとなり、ボルグが最初のマッチポイントを取って5連覇を達成した。その瞬間、ボルグは両膝をついて歓喜し、マッケンローは芝生の上に突っ伏した。誰もが心からの拍手を両者に贈った。
そして翌年、決勝でボルグを破り、マッケンローは初の王座に輝いた。
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