「不適切にも」に隠れた今期の名作 セクハラおやじ改造ドラマが描く「昭和脳」のアップデート

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ゲイの“若い友人”によってアップデートする沖田

 ところがその後、沖田は大地と親しく会話を交わすようになっていく。ゲイであることを隠そうとせず、「他人がどう思うか気にしない」という大地に、沖田は親近感を覚え「友だち」として接するようになる。

「凝り固まった偏見をなくして、倫理観とマナーを今の時代に合わせて更新する」。そんなアップデートを勧める大地の言葉に従い、沖田は自分を変えるように努めていく。

 いろいろな「多様性」に触れ、それぞれの個性を尊重する、ハラスメントをしない人間へと次第にアップデートするという物語が「おっパン」だ。男性の部下がワイシャツの下にブラをしているのを目にしても、あえて口には出さず、個性として尊重する。仕事終わりに「飲みに行くぞ!」などと部下を誘わなくなった。

それでも日々、困難はある…

 日々アップデートされる沖田の日常だが、それでも「デリカシーのなさ」が、ときどき顔を出して他人を傷つけてしまう。大地が恋人である先輩の男子学生と抱き合っているところを目撃したことがある沖田は、大勢の前で「大地君の彼氏だね」「仲がいいのは結構だね」と発言してしまう。彼氏のほうは大地と恋人であることを公にはしていなかった。沖田が行ったのは、性的嗜好を一方的に暴露する「アウティング」という行為だ。当事者の自死を招いた実際の事件もある。それを知らずに行ってしまい、沖田は一斉に冷たい視線を浴びてしまう。

 そんなある日、かつて営業の神様と言われた先輩が職場にやってくる。昭和の体質丸出しの古池正則(渡辺哲)だ。少し前までの沖田を彷彿とさせる人物で、“男女”を持ち出す。

 女性社員には「そこの女の子、さっさとお茶を淹れにいかないと…。気が利いてこそ、女」「お前、女なのに本当に可愛げがないなあ」、男性社員には「弱腰だから(契約を)他社に持っていかれるんだぞ。お前は男か!? 男を見せろ!!」と言い放つキャラクターだ。

 ほかにも、

「昔は良かったよ。席で煙草が吸えたから、わざわざ会社の端まで行かなくてよかったし、効率が悪いんだよ」

「ウチの奴なんかなあ、俺には一切文句は言わねえぞ。俺が食わせてやっているからな。やっぱり自分で稼いでいると思い始めると女は生意気になるばかりだなあ」

 と時代錯誤の言動を連発。こんな「昭和脳」の古池だが、納入したコピー機をめぐるクレーム対応ではかつての飲み友だち人脈を使い、粘りと根性で会社の 危機を救う。

 その直後――。沖田が先輩の古池に向かって発した言葉がこのドラマの核になっている。

「だからといって古池さんの態度が許されるわけでもない。女性がお茶を淹れる。妻は夫を立てて家事をすべて担う。社会人たるものプライベートよりも仕事を優先する。男は男らしく。それが常識だった時代もありましたよね。だから私も古池さんも部下に、家族にそれを強いたのは社会がそうだったからだと、自分が自分を擁護することはできる。『社会のせいだ。俺は悪くない』って。でも、その価値観を押しつけられた相手は誰も嫌な思いをしなかったとは言えないでしょう。つまり、本当は謝らなきゃいけないんですよ。先輩も、俺も、嫌な思いをさせた全員に……。(中略)だから、せめて俺は自分を変えるんです。変えなきゃいけないって思っているんです。古池さん、あなたには尊敬すべき粘りと根性がある。それを台無しにしないためにも、一緒に変わりませんか?」

 昭和の世代に生きてきた人間には身につまされることばかりだ。ドラマ「おっパン」も「ふてほど」と同じように、若い平成・令和世代と年配の昭和世代とが「和解」する物語だ。職場や家族でそれが可能なのか。「おっパン」の最終話は3月16日(土)に放送される。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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