「不適切にも」に隠れた今期の名作 セクハラおやじ改造ドラマが描く「昭和脳」のアップデート

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 今期のドラマではTBS系「不適切にもほどがある!」(以下「ふてほど」)が社会現象になっている。バブル経済真っ只中の1986(昭和61)年から2024(令和6)年にタイムスリップする体育教師を主人公に、2つの時代の文化の違いをコミカルに描いた作である。そんな「ふてほど」の陰で目立たないものの、同じように令和の時代における「不適切」を真正面から描いた良作がある。【水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授】

 フジテレビ系の「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(以下「おっパン」)だ。東海テレビが制作している。こちらは昭和生まれで51歳の沖田誠(原田泰造)が主人公で、事務機器をリースする会社の営業戦略室長という中間管理職。「根性」「粘り強さ」「付き合いの良さ」で営業成績を上げて顧客を増やしてきた。

 だが、沖田は仕事ひと筋で生きてきたため、社会の変化に気がつかない。「ふてほど」ではタイムマシーンによって昭和から令和への変化を主人公が実感するという設定だが、「おっパン」は発明ではなく、知らないうちに自分の頭の中が時代遅れになっていたという物語だ。そうしたリアルな時代遅れのおじさんはそこいら中にいる。だからこそ、より切実なドラマともいえる。

職場では昭和生まれおやじのセクハラ・パワハラ・根性論

 デリカシーのない言動の沖田は、職場でも嫌われている。

「おい、~~くん、お茶を淹れてくれ」と女性に命じ、男性が代わろうとすると「いいよ。お茶は女性が淹れてくれた方がおいしいだろう」などと口走る。お茶は「女性が淹れた方が雰囲気が柔らかくなる」「愛嬌は女性の武器だろう?」と言って女性の反感を買う。そして契約を獲れなかった男性の部下には「お前、男だろう? 押しが弱くてどうする?」と責め立てる。「他社がしないことをして初めて契約は獲れる」と先輩から教わった頑張ることしかしらない世代だ。

家庭でも「ひきこもり」「腐女子」「妻の生き甲斐」に気がつかず

 仕事ひと筋の沖田は、家庭にも無関心である。家族の小さな変化にも気がつかない。書店でバイトしている大学生の娘は“腐女子”。男性の筋肉をこよなく愛し、二次元創作に夢中だ。高校生の息子は野球好きの沖田の影響で野球部に入ったものの、不登校になって部屋にひきこもる。実は子どもの頃からメイクや女装に関心がある。妻も、自分がやりたかった仕事を育児のために断念し、現在はパートで働きながら韓国のアイドルグループに熱中している。そんな家族の心境を理解できない沖田……。妻の友人の息子でゲイの大学生・五十嵐大地(中島颯太)が息子にネイルを施している場面を目撃した沖田は、「君といて(息子に)ゲイが感染ったら困る」などと暴言を吐いてしまう。

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