23区の平均価格は“1億1483万円”…新築マンションブームで日本が滅ぶ理由

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新築よりも空き家の活用を

 それなのに、なぜマンションを新築し続けるのか。または、戸建てのための分譲地を開発し続けるのか。

 日本は戦後、経済対策の柱に住宅建設を据え、今日もそれを変えていない。昨今も経済対策には、省エネ住宅取得に向けた支援や住宅ローン減税などが盛り込まれる。それは新築が前提だから、対策の恩恵に浴そうとする人たちは、空き家には目を向けない。

 また、こうした経済対策は、デベロッパー や建築業者の収益と直結しており、彼らはあらたに土地を取得し、あらたに建てることを前提としている。そして、昨今のように建築コストが上昇すれば、高くても買い手がある都市部にマンションを新築する。既存の住宅やマンションを活かすという選択肢は、彼らのビジネスモデルのなかにはない。

 だが、ほんとうはいまこそ、デベロッパーの発想の転換が必要である。新築物件にいくつもの世帯が吸収されるということは、いくつかの空き家が生まれることを意味する。それは既存のマンションや住宅街の住環境の悪化に直結する。少子化がこれほど急速である以上、この環境悪化も急速に進むだろう。都市部のマンションの人気はそのまま、それ以外の地域の劣化につながっているといっても、過言ではあるまい。

 ヨーロッパの旧市街は、滅多なことがないかぎり、歴史的な景観を守るために新築が認められない。このため、建築業者といえば内装業者である。ただし、日本の住宅のリフォームよりもはるかに大胆にリフォームをする。極端な場合、外観だけ維持して内側はすっかり入れ替えてしまうのである。

 日本でもこれまで新築主体だったデベロッパーの事業を、空き家が多いマンションのリノベーションや、住宅の再生に転換できないものだろうか。少子化および小世帯化が進むのが確実である以上、われわれは都市も郊外もコンパクトに利用していく必要がある。そうしないかぎり、勤労世代が減少すればインフラの維持もかなわなくなる。

 いまは新築しないと利益が出ないのかもしれない。しかし、新築を重ねているかぎり日本が沈むことも、また、たしかである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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