大股で歩く、アプリで聴力チェック… 認知症予防のためにすぐやるべきこと7選
12のリスク因子
そこでますます重要になってくるのが「早期予見・早期予防」です。レカネマブや、レカネマブに続いて承認されるであろう新薬は、アルツハイマー病の前段階であるMCIと、アルツハイマー病の軽症患者さんが対象。進行したアルツハイマー病の患者さんは対象となっていません。遠くない未来、アルツハイマー病の治療は大きく前進するとみていますが、その恩恵を受けるためには、今できる予防策を一つでも取り入れること。備えあれば憂いなし、なのです。
では、何をすればいいのか? 20年、世界的に権威ある医学誌「ランセット」に、認知症のリスク因子が掲載されました。それは、難聴、頭部外傷、高血圧、糖尿病、過度の飲酒、肥満、運動不足、社会的孤立など12項目にわたり、これらをすべて改善することで発症を40%予防できるとしています。
認知症の研究は国内外で盛んに行われており、「ランセット」の12のリスク因子のほかにも、発症予防に役立つ行動、食事、生活習慣などが発表されています。
生活習慣の改善で仕事復帰が可能に
私の患者さんには、MCIと診断されたことをきっかけにエビデンスに基づいた予防策を取り入れるようになり、現状維持どころか認知機能が改善した方が少なからずいます。
当時51歳の大学教授はひどい物忘れがあり、ある認知症専門病院で画像検査などを経て若年性アルツハイマー病と診断されました。セカンドオピニオンを求めて私のクリニックを受診。最初の病院で「5年後には介護を受ける手配も考えてください」と言われたそうで、この先を絶望視されていました。
話を伺うと、毎晩かなりの量のワインを飲むとのこと。また、アミロイドPET検査では、アミロイドβの蓄積は認められませんでした。そこで、断酒・節酒を含んだ生活習慣改善の具体的なポイントを伝えたところ、物忘れがなくなり、元気に仕事へ復帰されたのです。もし過度の飲酒を続けていたら……。認知症のリスクはもちろん、ほかの病気のリスクも高くなっていたでしょう。
40~50代がドミノ倒しの始まり
アルツハイマー病は、25~30年という長い年月をかけて発症に至ります。それは、ドミノ倒しに似ています。始まりは、“脳内のゴミ”に例えられるアミロイドβが何らかの理由で分解、排出されなくなり、くっつき合うこと。それがタウというタンパクの蓄積・凝集を招き、神経細胞が変性し死滅。認知機能低下の症状が出てくるのです。
一般的な認知症の発症が65歳以降であることを考えると、40~50代がドミノ倒しの始まり。認知症というと随分先のように感じるかもしれませんが、予防策を取り入れるタイミングは「今」です。
とはいえ、やるべきことがたくさんあり過ぎると、人は実践を後回しにしてしまうもの。選択肢が多いほど選べなくなる心理現象を示した「決定回避の法則(ジャムの法則)」もあります。そこで厳選した「今すぐやるべきこと」を紹介しましょう。
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