重要な部分が欠落…アカデミー賞独占「オッペンハイマー」に異論噴出 SNS上で激しい議論に

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日米の被爆者を無視

「冷泉氏は、現在のアメリカで被爆地の悲惨な状況を公開することは、一種のタブーになっていると明かしました。その上で、23年5月の広島G7でバイデン大統領は原爆資料館を訪問しましたが、その際も『悲惨な展示は見なかった』ことも、映画『オッペンハイマー』で被爆地の描写が省略されたことと無関係ではないと指摘しました。冷泉氏は《被爆国である日本として、改めて真剣な問題提起をするべき》と訴えています」(同・記者)

 シカゴのデュポール大学で倫理学を教える宮本ゆき教授はハフィントンポストの取材に応じ、今年3月9日「原爆を作った『オッペンハイマー』の苦悩は、被害者より優先されるべきなのか。倫理学者が抱く危機感」とのインタビュー記事が配信された。

「宮本教授は、たとえオッペンハイマーが原爆開発を後悔して苦しんだとしても、広島、長崎の被爆者の精神的、肉体的な苦しみより優先すべき題材なのか、と厳しく問題提起しました。これは日本だけの問題ではなく、アメリカにも核実験で被ばくした被害者がいます。宮本教授は日米の被爆者の声に焦点が当たるより前に、原爆を作った人間と、投下した国の姿が映画化されたことに異議を唱えたのです」(同・記者)

「強いアメリカ」を描く映画

 ハフィントンポストの記事から宮本教授の痛烈な批判を引用しよう。

《この映画がスタンダードな原爆観になっていくことには危機感があります。加害側の苦悩やトラウマを無視して良いわけではありませんが、社会的に『強者』であった彼らが下した決断のもとで苦しむ被害者よりも、加害者に対する共感の方が強くなってしまうのではないか、と》

 3月12日には広島市の映画館で「オッペンハイマー」の試写会が開かれた。上映後のトークショーで、元広島市長の平岡敬氏は「原爆が作られる過程はあったが、広島の立場からすると、核兵器の恐ろしさが十分に描かれていない」との感想を述べた(註)。

「もちろん『オッペンハイマー』を擁護する声もあります。例えば映画評論家の町山智浩氏は、映画に否定的な投稿者とXで軽い論争状態となり、《オッペンハイマーが原爆投下を後悔してそれ以上の核兵器開発を拒否する話》、《広島での被爆者の後遺症の報告にショックを受け、核開発に反対するという物語》、《「原爆を作った人をヒーローとして描いているというのは完全な間違いです。彼自身の失敗と後悔、反省を描いた映画》と、映画『オッペンハイマー』は原爆投下を礼賛しているという見解に反論しました」(同・記者)

 今でもXでは激しい論争が続いている。東京では3月25日の先行公開も決まった。翌26日以降は、さらにネット上で激論が展開されるかもしれない。

註:映画「オッペンハイマー」広島で試写会 元市長「核の恐怖描かれず」(3月13日・毎日新聞電子版)

デイリー新潮編集部

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