「米国が沖縄を返還すれば、ソ連も…」 英国公文書館に眠る文書から読み解く「北方領土問題」の意外な解決策
外交巧者イギリスの思惑
「南樺太、千島」文書では、日本の立場、アメリカの立場、イギリスがこれまで取ってきた立場について述べた後で、イギリスとしては、日本が決定的に有利な状況になるまでは、支持の表明は控えるべきだと結論している。
言い換えれば、日本の試みが成功するのが決定的でないなら、イギリスがこの問題にコミットすることによって無駄にソ連の恨みを買いたくないということだ。いかにも外交巧者イギリスだ。
さらに、この文書はこう述べている。
「わが国政府は、吉田氏(吉田茂元首相)のサンフランシスコ平和会議での(南樺太と千島を回復すべしという)声明は、リバルディア(ヤルタ会談が開かれたクリミアの宮殿)合意にもサンフランシスコ条約にも合致しないと信じている」
つまり、少なくともこのときのイギリス外務省高官は、ヤルタ極東密約を考慮すべきものと考えている。
アメリカは上院で破棄したが、イギリスはその批准を議会にもかけず、秘密協定のままにしていた。公式に破棄していない以上、国民の合意を得ていない秘密協定であっても、外交上配慮すべしと考えているのだ。
「アメリカが沖縄を返還するなら…」
しかし、何よりも大きいのは、日本がサンフランシスコ平和条約においてアメリカが沖縄を信託統治すること、また、同時に調印された日米安保条約によってそこにソ連、中国等を封じ込めるための軍事基地を造ることを認めていたことだ。
文書はこう述べている。
「われわれはロシアが日本の領土を占領している問題を持ち出すことによって、ロシアがアメリカによる日本の基地の『占領』を非難するのを容易にしてはならない」
アメリカは沖縄などに、ソ連を仮想敵国の一つとする軍事基地を造っている。一方、ソ連は千島に軍事基地を造っていなかった。これでは北方領土問題を出すたびに、ソ連がアメリカによる沖縄などの軍事基地化を非難する機会を与えることになる。
フルシチョフも解任前の9月に訪ソした日本の国会訪ソ親善議員団に対し、「アメリカが沖縄を日本に返すなら、ソ連も2島(歯舞、色丹)を返還する」と言っていた。
アメリカが沖縄を日本に返還するなら、ソ連も同じことをするということだ。それをアメリカがするはずがないのを知っているので、イギリスは日本の要求を支持することは無理だと判断した。
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