「米国が沖縄を返還すれば、ソ連も…」 英国公文書館に眠る文書から読み解く「北方領土問題」の意外な解決策
ウクライナ侵攻から2年。かの地は領土を奪われた苦しみにあえいでいるが、わが国はそれが80年近く続いている。先頃もロシア前大統領が「日本人の感情は知ったことではない」と返還を完全否定。だが、英国公文書館に眠る文書には意外な解決策が記されていた。【有馬哲夫/早稲田大学教授】
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ロシアがウクライナを侵略し、西側を核で恫喝している現在、北方領土の重要性は増している。この地域はロシアの核兵器搭載原潜が頻繁に往来する核戦略上重要な海域に隣接している。また、日本へ侵攻するとなれば、前進基地の一つになるだろう。
これまで何度も北方領土返還交渉が行われてきた。その資料は日本、ロシア、アメリカに残されている。
ではこれにイギリスのものを加えたら、何か新しい事実や、視点は出てくるのだろうか。つまり、マルチ・アーカイヴ的アプローチ、複数の国の公文書を比較、参照して多角的に歴史的事実を明らかにする方法だ。本稿では、イギリス国立公文書館所蔵の「南樺太、千島」文書(1964年3月16日付)などをもとに、それを明らかにしていきたい。
ソ連はポツダム宣言に署名していない
まず歴史的事実を確認しよう。というのも、これまで、基本的事実が誤認されたり、見逃されたりしてきたからだ。
1945年8月9日、ソ連は日ソ中立条約に違反して満洲侵攻を開始し、そののち満洲、南樺太、千島全島を占領した。ソ連はこれをヤルタ極東密約とポツダム宣言(正式名称=日本の降伏条件を定めた公告)に従ってやったことなので合法としている。
しかし、この協定は当事国である日本があずかり知らぬもので、日本はまったく拘束されない。加えて、民主主義の国では、密約であっても議会の批准が必要だが、この協定はアメリカでもイギリスでも議会で批准されていない。アメリカ上院に至っては破棄することを決議している(拙著『歴史問題の正解』79~80ページ参照)。
ポツダム宣言も、あまり知られていないが、ソ連は署名していない。原爆を投下した後のほうが、日本の処理をめぐるソ連との話し合いは有利になるので、米英はそもそも対日処理を話し合っていないのだ(拙著『原爆 私たちは何も知らなかった』167ページ参照)。
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