現代日本人の精神年齢は何歳なのか? 映画監督・岩井俊二とプロデューサー・川村元気が口をそろえて「精神年齢は32歳」と語った理由(古市憲寿)

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 突然ですが、自分の精神年齢って何歳ですか?

 先日、映画監督の岩井俊二さん(61)と、プロデューサーの川村元気さん(45)と会っている時に、この話題になった。てっきり岩井さんは作風から17歳あたりなのかと思ったら、32歳だという。そして川村さんも同じく32歳が精神年齢らしい。

 なぜ32歳か。それは「やりたいこと」と「できること」が合致し始めるのが32歳ごろだから、というのが彼らの推察だ。

 若い頃は感性が豊かでも、テクニックがそれに追いつかない。頭の中で見えているものを、上手に表現するすべがない。一方で年を取り過ぎると、感性が衰えてしまい、心の機微がなくなっていく。32歳というのは、若過ぎず、でも老いてもいない、という絶妙な年齢なのだろう。

 岩井さんの32歳といえば、映画版「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」が公開され、「スワロウテイル」を制作している頃。まさに岩井俊二ワールドが一つの完成を見た時期といえるかもしれない。

 最新作「キリエのうた」では、震災が重要な役割を果たすのだが、それも“32歳”だから描けたのかもしれない。震災のまさにその瞬間を、あれほど扇情的な映像で表現できたのは、みずみずしい感性と、監督としての実力を兼ね備えた32歳の岩井さんならではだと思う。ぜひ映画本編を観てほしい。

 現在の日本の平均年齢は約48歳である。1960年には29歳、1980年には34歳だったから、着実に高齢化は進んでいる。

 だが精神年齢で考えればどうだろうか。とてもこの国が48歳の大人にふさわしい円熟期を迎えているとは思えない。政治家は実年齢こそ高いだろうが、政治資金にまつわるセコい経理処理など、やっていることが貧乏くさく、48歳の余裕とはほど遠い。

 同じ政治とカネにまつわる事件でも、昔はもっと規模が大きかった。老獪な昭和の政治家たちは、きちんと精神年齢70歳、80歳だったという気がする(それがいいとは言わない)。

 だが悪いことばかりでもない。先日、70代が中心の女性の集まりに顔を出したのだが、彼女たちはそれを「女子会」と呼んでいた。現代日本では、「女子」の定義がだいぶ拡張されているようだ。

 実際、今の高齢者は体力的にも若返っているという研究もある。スポーツ庁「体力・運動能力調査」によると、近年の高齢者は20年前と比べて10歳ほど体力的に若返っている。75歳になっても、20年前の65歳と同じくらいの体力があるのだ。特に女性の若返りが顕著なので、70代で「女子会」というのも別にいいのかもしれない。

 近頃「老害」という言葉が流行しているが、それも実年齢より精神年齢の問題だ。黒柳徹子さんや五木寛之さんは実年齢こそ90代だが、今でも好奇心旺盛で、精神年齢ははるかに若いはずだ。古くは「12歳の少年」説が議論を呼んだこともあったが、現代日本の平均精神年齢は何歳なのだろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2024年3月14日号掲載

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