マサイ戦士の第2夫人になった日本人女性の告白 伝統を守るマサイ族は今スマホで何を見ているのか
“牛目線“で見た日本
――ジャクソンさんは永松さんの帰国に合わせての 来日経験が豊富です。今回は8回目ですが、今まで訪れた地域で印象深かったのはどこですか。
ジャクソン「北海道です。日本のどこかに住むとしたら北海道を選びます。寒いけれど、牛が生きていける広い土地がありますから。あと、ケニアは干ばつが続いているので、常に豊富な水を擁する日本の川を持って帰りたいですね」
永松「彼はやっぱり“牛目線”ですよね。他の場所では、産業廃棄物不法投棄事件があった香川県の豊島(てしま)で衝撃を受けたようでした。あとは自動運転の車。ファミリーレストランの猫型配膳ロボットや回転寿司店の注文システムなど、ほぼ人の手を介さないことに驚いていました」
ジャクソン「今、世界はどこへ向かっているんでしょうか(笑)」
――ジャクソンさんが“牛目線”になるほどマサイにとって牛はポイントなのですか?
永松「マサイは牛と共に生きる民族。牛が何よりも大切なんです。財産であり食料であり、人生の節目となる儀式に欠かせません。牛がいなければ、人生を先に進める儀式もできない。マサイの人生には切り離せない存在です」
ジャクソン「牛以外には羊や山羊を飼っています。家畜の世話をするのは子どもたちの役割。ほんの小さな子どもの時から、少し上のお兄ちゃんから放牧の仕方を習います」
戦士時代は森の中で修行
――牛を大切にすることがマサイの大きな特徴であるわけですね。他には?
永松「人生を4つの段階に分けていることです。ジャクソンが言った放牧を習う子ども時代から始まり、割礼の儀式を経て青年時代に入ります」
ジャクソン「同じくらいの時期に割礼を終えた子どもたちは『リカ』(同期の仲間)となり、青年時代から大人時代、長老時代へと、共に次の世代へ進みます。戦士時代ともいう青年時代には、リカと一緒に森の中で修行しながらマサイの伝統やルール、智慧を学びます。例えば、牛の病気を自分たちで治せるようにするため、一頭を解体して体の仕組みを学んだり」
――修行はどのくらい続くのでしょうか。
ジャクソン「森から出たり入ったりはしますが、10年ぐらいですね」
永松「彼らを指導するのは『オルピロン』です。『オルピロン』は2世代下への指導役を担う世代の長老たちで、どの世代のリカにもオルピロンがいます。指導する側とされる側の2つの世代がセットになっているわけです。このように社会構造がきっちりしているのもマサイの大きな特徴。地域の親世代が子ども世代の指導を担う。自分の子育てが終わってもお役御免にならず、すべての子ども世代の責任をすべての親世代が持つこのシステムは非常に優れていると思います。
戦士たちが大人としての相応しい知識を身に付けたとオルピロンが判断したら、『エウノト』と呼ばれる戦士の卒業儀式を約1週間かけて行います。その数ざっと800人。集落によっては数千人規模になることもあります。最終日には戦士時代の特徴でもある長い髪を剃り落とすのですが、この日をもって厳しいながらも楽しかった戦士時代に別れを告げるとあり、みんな男泣きします」
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