「自分の胸に手を当てて考えろ」ビッグモーターを告発し、記者会見で兼重宏行氏から批判された元幹部の「反論と贖罪」

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いつでも馳せ参じるつもりだった

 全国民が注視する会見で飛び出した、自分に向けた言葉であった。中野氏は体が熱くなるのを感じた。その瞬間をこう振り返る。

「僕と兼重さんとの関係はとうとう完全に終わってしまったんだ、そんな寂しい気持ちが込み上げてきた。よく考えればとっくに終わっていたはずなんですがね。連日テレビで、兼重さんを名指しせずとも、記者会見を早く開くべきだと批判していたわけですから」

 ただ、自分の告発が兼重氏からこのように嗜められるとはまったく想定していなかった。

 義を明らかにして、利を計らず。

 備中松山藩(現岡山県)の藩政改革で知られる幕末の志士・山田方谷の言葉を、兼重氏は好んで口にしていた。正しい理念で経営に当たれば、自ずと利益はついてくる、という意味だ。

 お客さんを騙してはいけない、お客さんに寄り添って正しく車を売りなさい。あなたが私たちにそう教えてきたのではないか。あなたのその言葉を信じて、自分たちは日本一のクルマ屋を目指して頑張ったのに、このザマはなんだーー。胸のうちでこう反論しながらも、カッとなって言い返してきたところは“兼重オヤジらしい”とも思った。

 それまで、兼重氏から電話がかかってくるのを待っていた自分がどこかにいた。

「辞める前、『新しい形でビッグモーターの経営をやってもいいという気になったら、いつでも連絡をください』とメッセージをもらっていた。もしそんな要請があったら、僕は自分の会社をナンバー2に預けて馳せ参じるつもりだった。ただの夢想でしたが…」

感謝の念を忘れることはない

 それから中野氏は、書きかけていたビッグ社での経験をまとめた原稿の加筆修正に入った。そして昨年8月末、「クラクションを鳴らせ! 変わらない中古車業界への提言」(幻冬舎)を上梓した。

 トップセールスマンや大企業の幹部に這い上がるために、中野氏が実践してきたトーク術や情報収集術、マネジメント術を書き下した同著には、ビッグ社が日本一を目指す中で展開してきた“狂気の営業”も包み隠さず描かれている。そこで中野氏は悔恨と懺悔も綴った。

「当時は自分がやっていることに疑いを持たずに仕事に誇りを持ってやっていましたが、明らかに行き過ぎていた。中古車業界の悪しき慣習に慣れて感覚が麻痺していました。自分のパワハラで辞めてしまった人もいたでしょうし、競争に勝つ為に、強引な販売手法を取った時期もあります。今では心から反省していますが、その罪は消えないと思っています」

 自分を育ててくれた兼重氏や仲間への感謝の念を忘れることはない。

「伊藤忠の支援が決まり、同じ釜の飯を食った仲間たちの職場が失われないでよかったです。世間でビッグ社=悪の集団というイメージがあるかもしれませんが、それは誤解です。ただの詐欺集団だったらここまで大きくなれるはずがない。中古車業界と聞くと“ヤカラの集団”みたいな悪いイメージを抱く人もいるかもしれませんが、働いている人たちのほとんどが常識を持ち合わせた普通の人たちです。彼らがいたから今の僕がいます」

 業界のイメージを変えるためにも、新生・ビッグ社とは良きライバルとして切磋琢磨し合える関係になりたいと考えている。

ガムテープで受話器と手をグルグル巻きに…ビッグモーター元幹部の「中卒トップセールスマン」が実践した「絶対にあきらめない営業」】に続く。

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