実父の棺にすがりついて泣く女性と実母が取っ組み合い、そして10年後に再び大騒動が…49歳男性が語る「2度の修羅場」

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紗和子さんに連絡を取ると…

 母は「本人が死んでいるのだから責めようもない」と愚痴を言い続けた。母には気の毒だと思ったが、20年もつきあっていた彼女もおそらくそれなりに悲しんでくれているのではないかと弘哉さんは考えた。

「紗和子さんに連絡をとりました。紗和子さんが勤めている会社は、僕の勤務先と意外と近かったんです。仕事終わりに喫茶店で会って、いろいろ話しました。彼女は通夜での無礼をひたすら謝罪していましたね。『どこかの葬儀場ならともかく、自宅での通夜に行っていいかどうか悩みました。でもどうしてももう一度、彼の顔を見たかった』と彼女は泣いていた。通夜で見たときよりげっそりしていました。もとがきれいな人だから、やつれた表情に目だけがギラギラしていて、妙な凄みと妖艶さがありましたね。口調は落ち着いていたけど、言葉の端々に父への愛があふれていた。父は幸せな人生を送ったんだろうなと思えました」

 それを機に、紗和子さんとときどき会うようになった。どうして彼女に会い続けたのか、弘哉さんは今思えばよくわからないと言う。自分には見せなかった父の別の顔を知りたかったのか、あるいは紗和子さんに惹かれていたのか。

「両方だったんでしょうね。それに、単純に一緒にいて楽しかったのもある。紗和子さんはすでにお子さんが独立していてひとりだったから、父の責任を肩代わりしているような気持ちもあったのかもしれません」

「あなたに見せたいものがある」

 父の愛人に寂しさを感じさせてはいけないという妙な責任感だろうか。ともあれ、自分でもわからないまま、弘哉さんはときどき紗和子さんに会って、一緒に食事をしたり飲んだりするようになっていた。

「父の一周忌が近づいたころ、紗和子さんが『あなたに見せたいものがあるんだけど』と言いだし、自宅に連れていかれたんです。自宅はマンションの一室で2LDK。亡き夫がローンを組み、夫の死でローンは相殺となったそうです。お子さんはすでに独立していたので、当時の彼女はひとり。でも、きれいに暮らしている感じが伝わってきました」

 彼女が見せたいと言ったのは、父の遺したレコードと本だった。父がこよなくジャズを愛していたのは弘哉さんも知っている。家にもレコードがあった。父は昔のレコードをすり減るくらい聞き込んでいた。弘哉さんも影響を受けたためにジャズは好きだが、父ほどにはのめりこめなかった。

「家にある以上に、彼女のところに大量のレコードを遺していたんです。彼女は父の影響で、自らサックスを演奏するんだそう。父がクラリネットを吹けるというのも初めて知りました。父の知り合いが経営するバーで、ふたりで一曲吹いたこともあったんだそうです。僕は父のことを何も知らなかった……」

 本は音楽関係だけではなく、小説や画集などさまざまなジャンルにわたっていた。中でも多かったのが「春画」だった。エロティシズムにあふれた春画の画集をめくりながら、紗和子さんは「あなたのお父様は、こういう絵を観ているときでも品があった」と言いながらポロリと涙をこぼした。

「その涙を見たとき、僕の中で何かが弾けた。そんな気がします」

 神妙な面持ちで彼はそう言った。

後編【実父の葬儀で出逢った女性と不倫関係に…あっという間に夢中になって“ふと思った重大な事”、49歳夫が明かす「後悔と葛藤」】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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