実父の棺にすがりついて泣く女性と実母が取っ組み合い、そして10年後に再び大騒動が…49歳男性が語る「2度の修羅場」

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父の棺にすがりつく女性が…

 通夜の最中のことだった。参列者からのどよめきと葬儀会社の人の制止の声に、弘哉さんが顔を上げると、ある女性が泣きながら父の棺にすがりついていた。棺は、父とガラス越しに対面できるようになっていたのだが、そのガラスを割ろうともしていた。

「僕が立ち上がろうとすると、いち早く母が彼女の元へ走っていき、いきなり彼女を殴り倒したんです。女性は吹っ飛びました。周りからは悲鳴が上がり、これが修羅場というやつかと思いましたね」

 昔のことだからと弘哉さんは苦笑しながら言った。だがその場面は今でも鮮やかに脳裏に刻まれているという。その女性は父の不倫相手だったのだ。そして母は彼女の存在を知っていたのだろう。

「現場を見れば、それは察知できたので僕はとにかく彼女を連れ出しました。外で『僕は詳しいことは知らないけど、あとで連絡をするから』と彼女の連絡先を聞きました。戻ると母は息を切らして座り込んでいた。その後、具合が悪そうだったので救急車を呼ぶ事態になって。そのまま血圧が上がってしまって、翌日の葬儀に母は参列できなかったんです」

 悲惨な葬式でしたよと弘哉さんは愚痴った。

通夜に現れた女性の“正体”

 母は1週間ほどで退院、いい機会だからとあちこち検査してもらったが、特にどこかに病気があるわけではなかった。

「母が退院してホッとしたところで、改めて父の不倫相手のことを思い出しました。仲のいい夫婦だと思っていたけど、父にはああいう存在がいて、母も知っていたのかと思うと、複雑な気持ちでしたね。四十九日がすんだとき、母が『顔を見たのは初めてだったのよ』と彼女の話をしはじめたんです」

 相手は紗和子さんといって、父の会社員時代の部下の妻だという。それを聞いた弘哉さんは、「部下の妻を盗ったなんて、あまりに父らしからぬ行為」だと思ってびっくりした。ところが「盗った」わけではなかった。部下が急逝し、乳飲み子を抱えて困っていた紗和子さんの相談相手になっているうちに、そんな関係へと発展してしまったらしい。

「母が知ったのは関係が3年も続いてから。その後は別れたという父の言葉を信じていたようですが、通夜に現れた彼女を見て、すぐピンときたと。いったいいつの話なのかと思ったら、彼女は父より25歳も年下。そして部下が亡くなったのは父が50歳のときだという。だから父が亡くなったとき紗和子さんは45歳。僕より6歳年上でした。年上だと思えないほど若く見えてきれいな人でしたね」

 あの女と続いていたのか。私はずっと騙されていたんだよ、お父さんに。母はそう言って悔しそうに舌打ちした。舌打ちする母を初めて見たと弘哉さんはつぶやいた。母の悔しさも理解はしたものの、20年も続いていた父の不倫関係には驚きつつも感心もしたという。

「僕が大学生のころから父はずっと不倫していたわけですよね。家庭がありながら、よく続いたものだなあと客観的に感心したんです。父が亡くなったとき、僕はすでに結婚して子どももいたから、とてもじゃないけどそんな時間も経済力もないよなあ、と」

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