「全壊した蔵の瓦礫から酒米と一升瓶を探し出して…」 能登大震災“被災酒蔵”を救った「天狗舞」、コラボ酒に込めた想いとは

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震災によるピンチを、将来への希望に変える

“全国デビュー”について櫻田社長は「県外に出したことがないので、どうなるかイメージが湧かないです」と語っていた。

 車多酒造による櫻田酒造への支援はこれだけではない。

 車多酒造は前出のように減産を余儀なくされているにも関わらず、自社分の造りを一部後回しにし、3月から2本のタンクで櫻田酒造の日本酒を仕込むことにした。

「櫻田君が全壊した蔵の瓦礫の中から無事だった酒米を見つけ、引っ張り出してこちらに持ってきたので、そのお米を使ってうちのタンクで仕込みます。酵母はうちでも使っている“金沢酵母”ですから用意はありますし、うちの杜氏、蔵人も手伝いながらみんなで仕込んでいきます」

 こうした周囲のサポートや愛飲家らからの励ましの声を受け、櫻田氏は「今は再建してなるべく早く能登のこの地に戻り、酒造りをやりたいと思っています。2年後か3年後か分かりませんが」と笑顔で語った。

 実は今回、このようにあえて天狗舞とブレンドして全国に販売する背景には、車多社長が抱く今後の能登への危機感がある。能登ではこの数年、震度6前後の地震が続き、さらに今回の震災が起きたことで、若者の流出が加速しかねないのだ。

「若い人の中には、今は能登に住みたくないという人も出てきています。せっかく櫻田君が戻って酒造りを始めても、このままでは飲んでくれる人が誰もいなくなる可能性があるんです。能登はうちの杜氏の出身地ですし、能登の酒文化を失いたくはありません。将来、再び能登が人で賑わった時のためにも、全国の人に彼の酒を呑んでもらえれば嬉しいです」

 日本の人口減に伴い、地方の過疎化は避けられない状態になっている。地元中心に販売されてきた能登の酒を全国に展開し、販路を確立すれば、将来の危機にも備えられる。またこの取り組みは、全国の過疎地にある酒蔵を救うひとつのモデルにもなり得る。

 震災による大ピンチを、将来への希望に変えるコラボレーションである。

華川富士也(かがわ・ふじや)
ライター、構成作家、フォトグラファー。記録屋。1970年生まれ。長く勤めた新聞社を退社し1年間子育てに専念。現在はフリーで活動。アイドル、洋楽、邦楽、建築、旅、町ネタ、昭和ネタなどを得意とする。過去にはシリーズ累計200万部以上売れた大ヒット書籍に立ち上げから関わりライターも務めた。

デイリー新潮編集部

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