「全壊した蔵の瓦礫から酒米と一升瓶を探し出して…」 能登大震災“被災酒蔵”を救った「天狗舞」、コラボ酒に込めた想いとは

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「震災直後は廃業もやむなしと考えていました」

 能登半島地震で全壊した石川県珠洲市の酒蔵に、同じ石川県の有名酒蔵が手を差し伸べた。被災し廃業の危機に直面した櫻田酒造に対し、天狗舞で知られる車多酒造が酒造りの場を提供することなどで廃業を防いだのだ。この異例の取り組みに込めた思いを、櫻田酒造・櫻田博克社長と車多酒造の車多一成社長に聞いた。【華川富士也/ライター】

 珠洲市の櫻田酒造は「大慶」「初桜」銘柄が地元・能登で古くから愛されてきた酒蔵。家族経営の小さな会社で、今年1月1日の能登半島地震では、櫻田博克社長と家族の命は守られたが、酒蔵、貯蔵庫、店舗、住居が全壊。酒造りの場は瓦礫の中に失われ、この場で酒造りをすることは当面不可能になってしまった。櫻田社長は「震災直後は廃業もやむなしと考えていました」という。

 櫻田酒造の存亡の危機に立ち上がったのが、「天狗舞」で知られる石川県白山市の車多酒造だった。天狗舞は吟醸酒ブームのきっかけを作ったとも言われ、昭和の時代から人気を集め、全国で広く流通してきた。今回の震災では建物にヒビが入るなどの被害はあったものの、醸造設備は無事だった。しかし正月休みで7人の蔵人のうち6人が能登への帰省中に被災。しばらく蔵に戻れず酒造りが3週間ほど中断した。車多酒造によれば、今年は例年の8割ほどの製造にとどまりそうだという。

「能登の酒造りの火を消すわけにはいかない」

 かように酒造りに遅れが出て、減産を余儀なくされているにも関わらず、櫻田酒造の窮状を知った車多社長は「30年来の友人ですし、能登の酒造りの火を消すわけにはいかない」と協力を申し出た。

 まずは奇跡的に割れずに残った櫻田酒造の「能登初桜本醸造」を、天狗舞の知名度を“利用”しながら全国に売り出すことにした。

 櫻田社長によれば、瓶詰めされ出荷を待っていた一升瓶が2000本ほどあったが、震災により蔵が倒れ、商品も瓦礫の中に埋もれてしまった。その瓦礫を掘り起こしたところ、

「半分は割れていましたが、無事だったものを1000本ほど発掘できました。まずはこれまで通り地元のお店に出荷し、一部を天狗舞さんにお渡しして全国で売ってもらいます」

 車多社長は預かった“奇跡の一升瓶”の「能登初桜本醸造」を「天狗舞とブレンドし、うちの販売ルートを通じて売る」ことにした。あえて天狗舞を持ち出すのは、能登を中心に売られていたため全国的には知られていなかった酒を、手にとってもらいやすくするため。そして蔵の将来のためだ。

「私どもは地酒の初期からやっていますので、全国の有名な酒販店様にお世話になっています。全国の方に初桜と大慶というブランドを知ってもらって、彼が地元で酒蔵を立て直した時、全国の酒販店様にお取り扱いいただけるような体制を作っていきたいと思っているんです」(車多社長)

 その酒「能登半島地震 酒蔵復興応援酒 能登初桜+天狗舞」は、2月27日から販売が始まっている。なお、利益は「“ブランド使用料”として渡し、櫻田酒造の復興資金になります」(車多社長)

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