ソフトバンクが“世界の原石”を発掘する狙いとは…NPB初、アフリカ2選手をテスト201センチの16歳右腕に「佐々木朗希みたいになれる可能性はある」

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「一生の思い出になります」

 デンは「野球が人生を変えてくれる」と語り「家族全員が避難したら拠点がなくなる」という理由で今も南スーダンに残る母親に「いい生活をさせてあげたい」。これこそ、真のハングリー精神だろう。

 来日するために、ビザを取りに行った際には強盗に襲われ、身の周りの物をすべて奪われたという壮絶な体験も語ってくれた16歳に接してみると、こちらもつい取材する立場を忘れ、肩入れしたくなってしまった。

 それは、どうやら誰もが同じ思いだったようだ。

 前述したオスーナは、デンへ新品のスパイクを2足、トライアウト最終日にプレゼントし、練習中の昼食を共にしたドラフト5位ルーキーの右腕・沢柳亮太郎は「寂しくなるよ」とファンに配る自らのサイン入りカードをデンに渡したという。そのカードを嬉しそうに見つめながら「テストにパスできるかどうかは分からないけど、今回のことは一生の思い出になります」。

 そう語るデンの“これからの野球人生”に、幸多かれと祈りたい。

 そして、世界の逸材を集め、自らの手で育てていこうとしているソフトバンクの新たなる挑戦の成果も、それこそ1年や2年では決して出ない。デンのような“原石”を磨き上げるには、それこそ7~10年の中長期的な視野で取り組む必要がある。それだけに、4軍制を生かしたソフトバンクの“新たなる育成スタイル”には、こちらも継続的に注目していきたい。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)、「阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?」(光文社新書)

デイリー新潮編集部

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