地上波から配信に流れた俳優が活躍! Netflix「忍びの家」は日本の悪政に対する痛烈な皮肉か

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 観たい脚本家も俳優も軒並みこぞってどんどこ配信に流れるのは、お金やスケジュールの問題だけではない。テレビドラマには表現の自由がない。道徳的に・倫理的に・政治的に・スポンサー的に・事務所的に・コンプラ的にNGやタブーが多すぎる。謎の横やりがどこかから入り、エッジが削られ、原作者の意図が曲げられ、すべてが「テレビ的」な枠に押し込められてしまう。「人に非ず・人を憂う」が職業の俳優は秀でた表現力を十分に発揮できず、全員が優等生の公務員状態。ジレンマと消化不良が起こるだろうな、と勝手に妄想。

 地上波ドラマで姿を見かけなくても、映画や配信ドラマでいい仕事してんだよね。柳楽優弥が観たければDisney+かNetflix、山田孝之やピエール瀧はNetflix、みたいな。

 そういえば最近、賀来賢人を観てないな、洗濯してるかチキン食ってるか、CMが多いなと思っていたら、Netflixで世を忍んでいた。「忍びの家」の話だ。

 タイトル通り、世を忍ぶ仮の姿で現代を生きている忍者一家の物語。服部半蔵の子孫である俵家は日本で唯一の忍びの末裔(まつえい)で、代々国家権力の極秘任務(主に汚れ仕事)を完璧にこなしてきたという設定。指令を下すのは文化庁忍者管理局。昨年の「忍者に結婚は難しい」(フジ)では、伊賀は郵便局、甲賀は薬局という設定だったが、文化庁とはこれまた闇が深くてきな臭い。

 俵家には既に隠居の祖母(宮本信子)、倒産寸前の酒造会社を営む父(江口洋介)、専業主婦の母(木村多江)、大学生の長女(蒔田彩珠)、忍びの家系とまだ知らされていない幼い三男(番家天嵩)がいる。主演の賀来は自販機会社に勤める暗い次男役。暗いのにはワケがある。任務中に長男(高良健吾)が死んだから。自分が見逃した敵に兄を殺され、その責任を感じているのだ。長男の死後、父は任務を拒否。当然手当も入らず、俵家の家計は火の車という状態。

 賀来に意図をもって近づいてきたのが記者(週刊誌ではなく「ムー」)の吉岡里帆。殺人事件の真相を追ううちにカルト集団にたどり着く。その教祖を演じるのが山田孝之だ。容貌は典型的だが、声色と目力にはカリスマ感と説得力がある。

 出だしは暗めだが、コメディー要素を担い、忍びの矜持を見せるのは女たちだ。多江は万引きしたり、小遣い稼ぎにひとりで任務を受けてコミカルモード全開。彩珠は美術品を窃盗しては返し、忍びの鍛錬を続ける。宮本は熟練の術をさらりと使って密かに裏工作。最後まで観ると、実は女たちの暗躍という印象が強く残る。

 賀来の苦悩、高良の覚醒、山田の暴挙とある種の正論は、観る者を迷わせる。勧善懲悪と言い切れず、忍びが正義の味方とも限らない。主に従う忍びの本質は哀しくて虚しい。私利私欲で忍びをこき使う国家権力の卑劣さ、カルトの皮を被った覇権争いなど、劇中に出てくる要素と後味の悪い結末は、今の日本の悪政に対する痛烈な皮肉ともとれる。「この国を誤った方向に導く腐った頭を替える」というセリフが妙に響く。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年3月7日号掲載

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