「私たちは黒子の中の黒子…」皇族警護のスペシャリスト「警視庁警衛課」の実態、皇宮警察との違いとは

国内 社会

  • ブックマーク

トップはソウイチの課長と同等

 全都道府県警中、唯一の警衛専属の〝課〟として、警衛課は無二の経験値を重ねる。

「担当任務に警衛が含まれていても、実際には数年に一度、実務を経験するかどうかの他県の『PM』とは比べるまでもないはずです」(前出の関係者)

 ここで言うPMとは「Police Man(ポリスマン)」の略称。警察官を意味する、警察内部のいわゆる隠語である。警衛課長は、階級が警視ではなく警視正の〝上級課長〟だ。

 管内に皇居や丸の内、大手町といった「東京の顔」を抱える丸の内署トップ(署長)の椅子は、紆余曲折はありつつも代々、警衛課長か捜査一課長が就く栄誉あるポストとなっている。現署長も前署長も前職は警衛課長。逆に言えば警視庁の看板であるソウイチ(捜査一課)の課長と肩を並べる名誉職が、警衛課のトップなのである。

「マルケイ(丸の内警察署)にまつわる、昭和時代の噂話というか、都市伝説のような話を聞いたことがある。大企業の本社が多く集まる丸の内や大手町が管内にあるマルケイの署長は、退官する時に企業側から金額、数ともに結構なものになる餞別がもらえたと言われていた。だから、長年組織のために貢献した人物に与えられる『お疲れ様ポスト』などと言われていたそうだ」

 かつて警察幹部が、こう話していたのが思い出される。もちろん都市伝説の類(たぐ)いの話だとは思うが、仮に事実だったとしても、令和の今では時代が違い過ぎてありえないことだ。

 お代替わりで警衛課の体制にも変更があった。現在の体制は課長の下に警衛官と呼ばれる警視が置かれ、さらにその下にそれぞれ「警衛管理」「上皇警衛」「警衛第一」「警衛第二」「警衛第三」と名付けられた課長代理の警視を配置。庶務、上皇上皇后両陛下、天皇家、皇嗣家、そして常陸宮ご夫妻と三笠宮家及び高円宮家の三つの宮家を、各々担当している。

「それにしても…」と、ある警察関係者は打ち明ける。

「時代が移り変わって、警衛をめぐる環境も大きく様変わりしました。警衛課は皇居に隣接している警視庁本部庁舎の最上階に近いので、私たちは若い頃、廊下などの窓から見下ろすことがないよう心がけたものでしたが、今は気にしない連中も少なからずいるようです。行幸啓の警備で地方に行く機会の多い皇警の人たちが接し、目の当たりにする奉迎者は昔ながらの温かい歓迎ムードでしょう。しかし東京では少し様子が違ってきています。都会の人間は無関心か冷淡な反応が増えている印象があるからです。皇警が見ている皇室を取り巻く風景と、私たちのそれは違うのかもしれません」

 皇室の高齢化は進み女性皇族の結婚も続いており、皇族の減少、つまり皇室の先細り問題は新たなフェーズ(局面)に入っている。前述の警察関係者は「警衛の仕事が質、量ともに過渡期を迎えていることは実務上も肌感覚でも間違いない。皇室の存亡が今の政治家にかかっているのかと思うと、本当にはがゆい」と嘆いた。

朝霞保人(あさか・やすひと)
皇室ジャーナリスト。主に紙媒体でロイヤルファミリーの記事などを執筆する。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。