「君はわが社のエースで四番」「一流の打者も7割は失敗する」…“野球用語”はなぜ職場で通じなくなったのか
意味不明の言葉に
2010年代、仕事上の会議等でとんと言葉が通じないことが増えると感じるようになった。そして今はその度合いが加速している。一体何かといえば、やたらとビジネスの会話で使われていた「野球用語」が若者にとって、まったく意味不明の言葉になっているのだ。
【写真】1990年の発売当時“キリンの一本足打法から二本足打法への戦略転換”と表現され話題となった「キリン一番搾り」
2024年、メディアに登場する野球関連の話題は、結局、大谷翔平がどれだけ活躍したかや誰がメジャーに挑戦するか、そして阪神の岡田彰布監督が「アレ」で流行語大賞を取ったということ。大谷については2月29日の結婚発表がマスメディアでもネットでもとんでもなく話題になったわけで、コアな野球ファンはさておき、もはや芸能ネタとして消費されている。
そんな状況なわけで、「野球用語」がビジネス界で通用する状況にはないのも仕方がない。1973年生まれの私(ネットニュース編集者・中川淳一郎)が、野球用語がビジネスで通用しないと感じたのは2010年、毎週とあるプロジェクト会議をしていたIT企業に新入社員の女性が入ってきた36歳の時のこと。このプロジェクトは新人の正社員が担当するのが慣例となっていて、私を含めた3人のフリーランスは、正社員とともにプロジェクトを推進する。
全員野球で
引継ぎをした2年目社員の男性とは「野球用語」で仕事上の会話が成立していたのだが、同じノリで会議に参加すると新人女性はポカンとするばかり。この時すでに、ビジネスで野球用語を使うことはナウなヤング、特に女性相手にとっては意味不明の言葉のオンパレードだったのだ! 私が会社に入った1997年から退社をした2001年頃まで、会議では野球用語が飛び交っていた。2000年代にフリーになってからも同世代の男性が相手だったらそこそこ通用した。そうした野球用語の使用例をいくつか挙げる。
「なんで成果が出ないのか……。それはお前が打席に立つ回数が少ないからだ! 打席に入る数が増えればそれだけ成功する回数は増える!」
「大丈夫だ。一流の選手の証は3割打つこと。逆に言うと7割は失敗がある。それが仕事というものだ」
「本日、大切な御社のプロジェクトに新しいメンバーを投入します。我が部のエースで四番、田中です!」
「今年の新入社員の吉田君だ。吉田君は、東大の院卒で外資系コンサルのインターンもやった即戦力だ。皆さん、吉田君にすぐに追い越されないように(笑)」
「今回のプレゼンは我が社の最大のライバル・X社とのまさに10.8決戦。全員野球で必ずや勝利するのだ!」
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