評論家が選ぶクドカンドラマ「ベスト5」 3位木更津キャッツアイ、2位不適切にもほどがある…1位は 

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 現在放送中の金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS)が中盤に入って視聴率を伸ばしている。脚本がクドカンこと宮藤官九郎(53)のオリジナルで、主演が阿部サダヲ(53)という組み合わせは、2019年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(NHK)以来だ。「いだてん」の平均視聴率は8・2%で大河ワースト記録を作ってしまったが、好調の「不適切~」とは何が違ったのか。メディア文化評論家の碓井広義氏にクドカン脚本ドラマのベスト5を選んでもらい解説をお願いした。(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)

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碓井:まず僕のお気に入りクドカンドラマ5本を放送順に挙げさせてください。そのほうが解説しやすいですし、わかりやすいと思いますので。

――承知しました。では最初の1本は?

●「木更津キャッツアイ」(TBS)2002年1月18日~3月15日
 主演:岡田准一 平均視聴率10・1%

碓井:放送されたのは2002年ですから20年以上も前のドラマです。あのドラマを見た時の衝撃というか、おかしさ、面白さはどこにあるのか振り返ってみると、まず舞台となったのが千葉の木更津という、失礼ながら誰も注目していない場所だったことです。それは具体的な地名や場所ということではなくて、誰も顧みなかった地方、田舎にスポットを当てたところにびっくりしました。しかも、木更津にいるメンバーというのは、そこで生まれ育ち、地元に残った連中でした。

――草野球チーム「木更津キャッツ」のメンバーは、岡田准一、櫻井翔、岡田義徳、佐藤隆太、塚本高史だった。

碓井:彼らには都会への憧れと反発がある。なおかつ、都会に対するゆえなき劣等感と俺は木更津が好きだぜという地元愛もある。憧れと反発、劣等感と地元愛、まったく正反対の感情を同時に抱えた、いわばアンビバレンツな状態です。そこから独特なおかしさが生まれてくるわけです。都会に出ていった人たちがこのドラマを見たら、地元に残った人たちの懐かしさがある。地元に残った人たちが見たら、俺たちもこうだよなという自虐的な親近感がある。それでいて登場人物たちは愛すべき連中なわけです。地元というものの発見もあったし、田舎の逆転というそれまでのドラマでは描かれなかったものを見せてくれたおかしさがあったし、対比の面白さというのは現在放送中の「不適切にもほどがある!」の原点じゃないかと思います。「不適切~」でも昭和と令和の対比になっているわけです。逆のものを対比させ、そこに生まれるギャップみたいなものを教えてくれたのが「木更津~」だったと思います。

――続いて2本目。

結びつかない組み合わせ

●「タイガー&ドラゴン」(TBS)05年4月15日~6月24日
 主演:長瀬智也、岡田准一 平均視聴率12・8%

「木更津キャッツアイ」から3年後に放送された「タイガー&ドラゴン」は、「木更津~」で見つけた“対比”の幅を広げた形で展開しました。つまり、落語とヤクザという結びつくはずのないもの、全く別ものを1本のドラマにぶち込んだ。しかも、主演の長瀬智也でいえば、昼間はヤクザで夜は落語家という二重生活もおかしかった。今でこそ落語界にはスターが生まれて盛り上がっていますが、この頃、落語は忘れられていたものでした。そんな中にあって、笑福亭鶴瓶はじめ、今では「笑点」(日本テレビ)の司会を務める春風亭昇太、放送作家の高田文夫らも登場し、長瀬や西田敏行の落語にも本物感があった。さらに、それをヤクザと一緒にひとつの鍋で煮込むことができるんだという面白さがありました。「木更津~」の岡田准一もよかったですけど、「タイガー&ドラゴン」には新たに長瀬が出てきた。クドカンにとっては長瀬の発見というのも大きかったと思います。

――そして3本目が、あの名作だ。

●朝ドラ「あまちゃん」(NHK)13年4月1日~9月28日
 主演:能年玲奈(現・のん) 平均視聴率20・6%

碓井:言わずもがなではありますが、「あまちゃん」が名作たり得た要素はいくつもある。まずは朝ドラのヒロインの設定にご当地アイドルを持ってきたという発想。それから、能年玲奈が演じた天野アキの青春と、彼女の母である小泉今日子が演じた天野春子の青春を同時進行で描いたこと。もちろん、春子の青春は過去の話ですが、カットバックしながら同時に描いていきました。過去と現在を等価で扱うというのは「不適切にもほどがある!」と同じ描き方です。それに、流行にもなった「じぇじぇじぇ」などの名台詞の連発。また、それまで一般の視聴者はあまり見たことがなかった面白い役者たちが続々と出ていました。彼らはクドカンと同じ舞台俳優だったわけですが、ここから出てきた舞台の人たちが、今やドラマや映画といった表舞台で活躍しています。キャスティングもチャレンジングなものだったと思います。

――4本目は?

介護ドラマの一面も

●「俺の家の話」(TBS)21年1月22日~3月26日
 主演:長瀬智也 平均視聴率9・2%

碓井:「タイガー&ドラゴン」で落語家の師弟を演じた長瀬智也と西田敏行を、「俺の家の話」では能楽師の宗家の親子として再び登場させました。「タイガー&ドラゴン」の落語とヤクザをさらに展開して、能とプロレス、さらに介護を入れてきたのがすごい。よくできたホームドラマであると同時に、秀逸な介護ドラマという一面もあり、さらに、本邦初の介護ドラマと言ってもいいかもしれません。戸田恵梨香が演じる“伝説のヘルパー”が放った「介護にまさかはないんです」は名言です。ドラマの中では「要介護」と「要支援」の制度の違いから、介護をするとはどういうことなのかも見せてくれた。3年前のドラマとはいえ、まだ自分の身内や家族の介護を表立って話題にするものではなかった時に、このドラマは介護も普通のことなんだ、当たり前のことなんだと、見る側を笑わせながら物語にしてくれたことが画期的だったと思います。また、能という伝統芸能をプロレスと対比させました。ステージで客を楽しませることでは変わらないよと言ってしまうところが、クドカンらしさだと思います。

――そしてラストとなる5本目は?

異議ではなく、やんわりとした提案

●「不適切にもほどがある!」(TBS)24年1月26日~
 主演:阿部サダヲ

碓井:昭和のおじさんが令和に来ちゃって、おじさんが笑われる話かと思ったら、そうじゃなかったことに驚きました。これだけコンプライアンスに縛られてしまった今どきの世の中に、クドカンは「ちょっと待てよ」という疑問符を投げかけるわけですが、決して異議申し立てとか肩肘張った感じではなく、笑いながら疑問符を投げつけているのが見事だと思います。まだ放送中ですが、僕が感心したのは「女性はみんな自分の娘だと思えばいいんじゃないかな?」という阿部サダヲの台詞です。コンプラ、コンプラって、規制とか規則で縛るのではなくて、何かを言う時に相手が自分に娘だったら、自分の娘に言えないようなことは言うなよ、自分の娘にできないようなことはするなよ、という提案は素晴らしい。コンプラ社会を“批判”するのではなくて、やんわりと“批評”する、笑いながら提案するドラマになっている。みんな心の中で鬱陶しいとか行きすぎているとか思っているわけですが、下手なことを言えば叩かれる、炎上する世の中に身を縮めている中、「ちょっと待って、話し合っていこうよ」というのがクドカンの思いだと思います。

――ここで5本分は出たが、大河「いだてん~東京オリムピック噺~」は入っていない。あえて「いだてん」の評価を聞いてみた。

クドカンドラマの真骨頂とは

碓井:「いだてん」はクドカン最大の異色作にして意欲作だったと思います。間違いなくトライアルでした。だけれども、クドカンの良さであるユーモア精神であるとか遊び心は、大河という枠には合わなかったと思わざるを得ません。しかも、この作品は、たとえコロナ禍であっても東京オリンピックをやるんだ、盛り上げなければいけないんだという政府の意向があり、その国策イベントをNHKは支援せざるを得なかった。そうした難しい状況の中で制作されました。クドカンは主人公に“日本のマラソンの父”と呼ばれる金栗四三(中村勘九郎)と東京オリンピック招致に尽力した田畑政治(阿部サダヲ)を持ってきたものの、それだけじゃつまらないので古今亭志ん生(ビートたけし/森山未來)を持ってきた。クドカンならではの手練手管を使って、何とか彼なりのユーモアと遊びを実現しようとするんだけど、やればやるほど「NHKのバックにある、国策イベントのアシストかよ」と視聴者から思われ、いつものようなみんなが拍手できる作品にはならなかった。

――では、先に挙げていただいた5本のドラマ、順位をつけるとどうなるのだろうか。

碓井:あえて順位をつけると、1位は「あまちゃん」。やっぱりクドカンの最高傑作だと思っています。2位は放送中の「不適切にもほどがある!」。「あまちゃん」から10年が経って、その間のクドカンが全部ぶち込まれているように思います。3位は「木更津キャッツアイ」、これが彼の脚本家としての出発点だと思いますし、クドカンとしてのいい部分が出ていた。4位は「タイガー&ドラゴン」、5位は「俺の家の話」としたいと思います。

――クドカンドラマの真骨頂とは何だろうか。

碓井:やはり、設定と人物、そして台詞、この3つがクドカンならではの発想で描かれています。「こんな人物いるかよ、でもいるかも、いたらいいな」という秀逸な人物設定があること。台詞については、「この言葉が出るか!」とみんな心の中で思っていたというか、忘れていたり、でも奥底で聞きたかったりした言葉で、ど真ん中を射貫いてくる。驚くんだけれど納得できる、しかも、その背後にはクドカン独特のユーモアセンスが光っていることだと思います。

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