「突然、事務所が閉鎖され着る服がない」 韓国でK-POP練習生になった日本人男性を襲った悲劇
冬服がない
冷静になってみると、そんなことよりももっと急を要することが発覚する。それは冬服をどうするのか、会社の倉庫にある冬服なしにどうやって過ごすのかということだった。
その時期は金銭的にちゃんとした食事を摂る余裕がなく、コシウォンに置いてある自由に食べていいキムチとご飯を食べて生活していたので、安くても2万円はするダウンジャケットなんて買えるはずもなかった。そんな僕を置いていくかのように、どんどん季節は冬に近づいていく。
日が暮れれば吐息が白くなるくらい気温が下がっていて、早急にどうにかしないと外出すらできない危機的状況であり、真冬のソウルで凍死するのは避けたかった僕はレナさんに相談した。
するとレナさんが着ていない服を分けてくれることになり、早速次の日には袋一杯の洋服をもらうことができた。袋の中身を確認してみると、トレーナーや軽く羽織れるアウターなどが数着と帽子や小物も少し入っていたのだが、レディースの服であるために腕を伸ばすと七分丈サイズになる。着れない物は捨てていいと言われたけれど、今この状況で天からの恵のような冬服を捨てるなんてバチが当たると思い、ありがたく着た。
新しい事務所
それから一週間ほど経っただろうか。これといった状況説明も今後についての共有もないので代表に連絡を入れ、倉庫にあった荷物は返ってくるのか、会社はどうなるのか説明を求めたら、直接会って話そうと住所が送られてきた。
ビルは江南駅の繁華街の中にあり、一階にコンビニがある建物の最上階だった。中に入るとレコーディングブースと他に数部屋あって鏡のあるダンス練習室のような部屋もあった。
この時点で何となく代表が話したい内容は分かったが、僕はとりあえず荷物を返してほしいと伝えた。すると荷物はどうにかするから少し待ってほしいとだけ言われ、返って来るのか来ないのかの言及はなかったので、今すぐに厚手の服が必要だと僕が言うとダウンジャケットを準備してくれるとだけ言われた。続けて代表からは事務所をこの場所に移すこと、社名を変更することが発表され、その日は終わったのだった。
読者の方が大人なら、この状況がどんな状況かすぐに理解できるだろう。
あえてこの場では言わないが、その時の僕は新しい社名に僕の好きな「星」というワードが入っていることをただ喜んでいた記憶がある。この状況がどんな状況なのかその時ちゃんと理解していたら、僕の未来は違うものになっていたのではないかと思う時もあるが、この先に待っている僕の人生を考えるとこれはこれでいい経験だったと言える。そして今現在も帰って来ていない僕の荷物が僕の元を離れ身軽になったことで、この後、素晴らしいプレゼントが舞い込んでくることを考えるとそれもそれでよかったのだと思うことができる。
※高田健太の「高」は「はしごだか」が正式表記
前編【「K-POPアイドルになりたい」日本人男性が韓国で受けた苦難 “オーディションで無視”、“氷点下でのダンス練習”】のつづき
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