「不適切にもほどがある!」クドカンが“震災”に一歩踏み込んだ理由

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常に完成度が高いクドカン・磯山作品

 一方で市郎は自分の死を甘受するのか。これも興味の的である。運命を受け入れるのか、それとも自分も純子たちも震災前に神戸市を離れさせ、歴史に抗うのか。過去を変えると未来も変化することは、作品内で何度も説明されている。伏線なのかも知れない。

 同じタイムリープ作品の日本テレビ「ブラッシュアップライフ」(2023年)の主人公・麻美(安藤サクラ・38)は運命に抗い続け、最後は幼なじみの命を救った。大抵のタイムリープ作品は運命に抵抗する。クドカンはどうするのか。彼の運命観が表れるのだろう。

 クドカン、磯山氏の作品はいつもそうだが、完成度が高い。働き方改革などを歌ったミュージカル部分は「ニッポン無責任時代」(1962年)など一連のハナ肇とクレージーキャッツの映画へのオマージュにほかならないが、元祖を超えている。歌詞とストーリーが完璧なまでに合致している。

 ギャグも冴えている。特に純子の毒舌や暴論に妙なリアリティがあり、笑わせてくれる。

「10代のうちに遊びまくって、クラリオンガールになるの」(第3回)
「(大学は)川島なお美と同じところに入りたいの」(第5回)

 青山学院大である。確かに、当時の多くの女子高生が偏差値を考えずに憧れる大学だった。

視聴率も好調

 構成も緻密。渚が市郎の孫であることが明確になったのは第5回だが、その関係は第1回から暗示されていた。元気だったころの妻・ゆりと幼い純子がピンク・レディーの「渚のシンドバッド」で踊っているビデオを、市郎が宝物にしていることが明かされていた。純子が娘に渚と命名したのは素直にうなずけた。

 視聴率は高く、13歳から49歳までに絞り込んだ個人視聴率のコアは4.4%で断トツ。ほかのドラマを寄せ付けない。意外や1986年を肌で知らない世代にウケている。

 全年齢に調査対象を拡げた個人視聴率は5.0%。同じTBSの「日曜劇場 さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(日曜午後9時)の6.7%に次いで2位だ。冬ドラマで1、2を争うヒット作になった。

 一部に前時代的な表現があることを問題視する向きもあるが、どうだろう。このドラマは旧作ドラマや古い映画を大量に流すCS放送のパロディでもあると見ている。

 CSは現代では許されぬ表現の修正を一切せず、冒頭でお断りを流すだけ。「不適切にもほどがある!」より、ずっと過激だ。

 過去、社会の総意として認めていた表現を否定しても仕方がないのではないか。それより、何が間違っていたか、どうやって繰り返さぬようにするのかを考えるべきだ。おそらく、このドラマはそれも訴え掛けている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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