「不適切にもほどがある!」クドカンが“震災”に一歩踏み込んだ理由

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市郎が大切なのは家族

 その後、市郎の口から出てきた言葉は自分の死についての嘆きや怯えではなく、家族との関係の話だけだった。純子とゆずる、孫の渚(仲里依紗・34)との短い未来である。

「良かった。(純子、ゆずると)ちゃんと打ち解けて仲良くなって」(市郎)

 純子夫婦の結婚後、市郎は2人と絶交していた。市郎は結婚に反対だったのだ。しかし、自分の判断を悔いているようだった。

 ゆずるから聞かされた話によると、市郎は震災の直前に純子とゆずるの住む神戸市に行き、スーツを仕立ててもらう。和解した。市郎は娘夫婦、孫と束の間の団らんがあることを喜んだ。

「(自分と純子、ゆずるで)酒飲んだり、孫を抱っこしたり、一通りあるんだろ。楽しみだ」(市郎)

 クドカンは「あまちゃん」のころから震災がもたらす最大の不幸は何なのかを考え続けていたのではないか。それは家族を失うこと、家族との歴史が終わってしまうことだという結論に至ったのではないだろうか。

 クドカンは郷里について無関心を装うこともあるものの、実際には宮城県の震災復興情報の発信や県のPRを行う「みやぎ絆大使」を務めている。「季節のない街」を撮ったことにも表れている通り、震災を忘れたことはないはずだ。

最初から核心は家族の物語だった

 ここで気づかされる。クドカンと磯山晶プロデューサー(56)はこのドラマで「昭和と現代で変わってしまったもの」を描きつつ、「いつの時代も決して変わらないもの」を伝えようとしているのである。それは家族愛だ。

 価値観や文化の変遷を表すだけのドラマなら、第1回から市郎の孫・渚を出す必要はなかった。最初から核心は家族の物語だった。いつもながらクドカンと磯山氏の作品には企みが隠れている。

 クドカンと磯山氏にとって、家族愛は定番とも言えるテーマである。2人がTBSのプライム帯(午後7~同11時)で初めて組んだ「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)の主人公・マコト(長瀬智也・45)は母親・律子(森下愛子・65)の無軌道な行動に悩まされ続けたが、一方で母親を悲しませる存在を決して許さなかった。

「木更津キャッツアイ」(2002年)は、死期が迫った主人公・ぶっさん(岡田准一・43)と父親・公助(小日向文世・70)の不器用な親子愛の物語でもあった。「タイガー&ドラゴン」(2005年)、「うぬぼれ刑事」(2010年)、でも親子愛は表された。「流星の絆」(2008年)では兄妹愛が描かれた。近作「俺の家の話」(2021年)の主人公・寿一(長瀬智也)は家族を愛するあまり、自分の死に気づかなかった。

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