迫る日銀の「マイナス金利解除」…変動金利上昇で住宅ローンの返済は一体いくら増加するのか

ビジネス

  • ブックマーク

2つの悪いシナリオ

 日本銀行がマイナス金利解除に向けて騒がしくなっている。

 そもそも、昨年4月に植田和男氏が日銀総裁に就任してから、黒田東彦前日銀総裁が進めていた「異次元の金融緩和」は徐々に出口へ向かうと予想されていた。実際、植田総裁は、長短金利を操作する日銀の政策「イールドカーブ・コントロール(YCC)」で、これまで押さえつけてきた長期金利の許容変動幅を拡大してきている。

 それにともない、長期金利と連動する住宅ローンの固定金利は大手行を中心に上昇している。例えば、2月の住宅ローン金利では三井住友銀が10年固定を1月比で0.05%高い1.14%に。みずほ銀行が0.1%上昇し1.450%という具合だ。

 今後、マイナス金利が解除され、政策金利=短期金利も上昇する局面となれば、住宅ローンの変動金利も上昇する恐れがある。その場合、家計にどれほどの影響があるのだろうか。

 日本総合研究所マクロ経済研究センター所長で、日本銀行出身の西岡慎一氏に訊いた。

 まず、日銀の金融政策についてはこう解説する。

「植田総裁は今後の日本経済について、悪いシナリオを2つ想定していると思います。一つは“過度のインフレで国民生活が破綻すること”、もう一つは“利上げによって景気が減速し、物価と賃金も上がらない局面に戻ること”です。おそらく植田総裁は現段階では後者のリスクの方を重く見ている。インフレはアメリカのように金利を上げてしまえば、力ずくで抑えることができる一方、デフレの場合、ゼロ金利政策など金融政策の効果には限界があるからです。ただし、現在の経済状況は利上げする材料は揃っていると言えるでしょう」

短期金利が上がれば、変動金利も上昇する

 その背景にあるのは、物価と賃金だ。

「物価と賃金は長年上がってきませんでしたが、ウクライナ情勢による原油高や円安などの影響をきっかけに、30年ぶりに物価と賃金が持続的に上がる局面になってきています。コロナ禍前は労働人口不足であっても、女性や高齢者の労働参加などでしのぎ、賃上げにはなかなかつながりませんでした。それがいよいよ限界に近づき、賃金を上げて人を確保することが企業にとって当たり前になりつつあります」

 物価と賃金の好循環が見られれば、当然、金利も上がる。

「今後、日銀は短期金利を引き上げ、適正金利が2~3%になる可能性が高いでしょう。その金利に至るまでのタイムスパンを明示するのは難しいですが、春にマイナス金利を解除したならば、その後、賃金や物価の上昇が持続していることを確認しながら、半年に1回くらいのペースで0.25%ずつ上げていく可能性もあります」

 短期金利が上がると、短期プライムレートを通じて、住宅ローンの変動金利も上昇することになる。

「過去の短期金利と銀行の貸出金利の関係を参照していくと、短期金利が2%上がった場合、短プラも2%上がっています。時間をおいて変動金利も同様に上がることが予想されます」

 そうなったときに、住宅ローン契約世帯にどのような影響があるのか。まず、抑えておかねばならないのが、日本は「変動金利のシェア」が異常に高い国だということだ。

「住宅ローンにおける変動金利と固定金利の割合という意味では、日本は22年度の全体の住宅ローン残高が204兆円に対し、変動金利型の残高は130兆円。新規住宅ローン貸出でみると、2021年度は70%ほどが変動金利になっています。これは欧米に比べても突出して高く、例えば、ドイツは変動金利の割合が全体の10%程度、イタリアも10%強、フランスに至っては変動金利の割合が2%台です。アメリカも変動金利の割合が少なく、過去に経済危機の起きたギリシャでも変動は50%ほど。日本がこれだけ変動金利の割合が高いのは、長く経済の低迷が続き、国が住宅ローン減税などの政策を行う中で、低金利の変動金利型住宅ローンの人気が高まったことが挙げられます」

次ページ:若い世代の貸出残高が急増

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。