【追悼】暴漢に牛刀で斬りつけられて50針以上縫ったことも 九代目春風亭小柳枝さんが残した“温かい”落語

エンタメ

  • ブックマーク

在留邦人に落語を披露するために世界各地へ

 高座以外でも注目された。日本航空から声がかかり、在留邦人に落語を披露するため世界各地を訪ねている。三代目古今亭志ん朝さんと一緒にヨーロッパを回ったこともあった。

「欲がなく賞を狙うような動きもしない。抜群の知名度こそないが、聴けば良さがわかる。日航に重宝されたのも納得です」(吉川さん)

「井戸の茶碗」「二番煎じ」「抜け雀」などが得意といわれた。

「登場人物が善人のものは、小柳枝さんが演じるといっそう良い人になるのです。情の部分がしっかり伝わり、お客も温かい気持ちになりました」(広瀬さん)

 古典落語を弟子のみならず、後進に気さくに教えた。ハワイアンバンド「アロハマンダラーズ」に入り、ウクレレや歌を披露していた。

 読書好きで、池波正太郎さん、落合信彦さん、そして古典落語研究家の興津要さんを特に愛読。趣味の日曜大工は玄人はだしだった。

 2013年、文化庁芸術祭賞の大衆芸能部門大賞を受賞。16年に脳梗塞で倒れるがリハビリに励み、1年後には復帰。20年、アロハマンダラーズの浅草演芸ホールでの舞台にも車椅子姿で出演、「君といつまでも」を楽しそうに歌っていた。

 1月31日、老衰のため88歳で逝去。入院していたが、その日も朝食を取り、眠るように亡くなった。

 江戸情緒を感じさせ、器の大きな人柄は終生変わらず。落語界の至宝だろう。

週刊新潮 2024年2月29日号掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。